インストール型では、端末内でデータ処理を行うため、メッセージの表示や検索処理が高速に動作します。ローカルにデータが保存されるため、過去のメッセージ履歴にアクセスする際の待機時間が短縮されます。通信量も必要最小限に抑えられるため、回線が混雑している時間帯でも安定した動作が期待できます。

クラウド型が常時インターネット接続を必要とするのに対し、インストール型は一部機能をオフラインで利用できます。出張先や移動中など、インターネット環境が不安定な場所でも基本的な機能は継続して使用可能です。ただし、他のメンバーとのリアルタイム通信には接続が必要となるため、完全なオフライン運用はできません。

インストール型では、各端末にセキュリティ機能が組み込まれているため、通信経路での情報漏洩リスクを軽減できます。メッセージの暗号化（情報を第三者に読み取れない形に変換すること）処理も端末内で実行されるため、より高度なセキュリティ対策が実現されます。企業の機密情報を扱う部門では、このような多層的なセキュリティ対策が重要な選択基準となります。

ソフトウェアの更新は、提供会社が配信するアップデートパッケージを各端末にインストールする形で実施されます。更新のタイミングは企業側で制御できるため、業務に支障がない時間帯を選んで実行できます。一方で、全端末での更新作業には時間がかかるため、計画的なスケジュール管理が求められます。

サーバー側で障害が発生した場合でも、各端末に保存されているデータにはアクセス可能です。過去のメッセージ確認や資料の閲覧など、一部の業務は継続して行えます。しかし、リアルタイムでのメッセージ送受信や新規グループの作成など、サーバーとの通信が必要な機能は利用できなくなります。

企業の規模や組織構造によって、インストール型ビジネスチャットの導入方法や運用体制は大きく変わり、それぞれに適した展開戦略があります。

創業間もない企業では、限られたメンバーから試験的に導入を開始するケースが多く見られます。最初は経営陣とコアメンバーで基本的な使い方を習得し、操作方法や運用ルールを確立します。事業拡大に合わせて新入社員や外部パートナーを段階的に追加していくことで、混乱を避けながらコミュニケーション基盤を構築できます。

従業員数が100名を超える企業では、営業部門や開発部門など、特定の部署から導入を開始することが効果的です。各部門の業務特性に合わせたグループ設定や権限管理を行い、部門間連携の方法を徐々に確立していきます。成功事例を他部門に横展開することで、全社的な導入をスムーズに進められます。

従業員数が数千名規模の大企業では、統一されたコミュニケーション基盤の構築が重要な課題となります。本社と支社、国内と海外拠点を含めた全社的な運用ルールの策定が必要です。階層的な組織構造に対応したグループ設計や、役職に応じた権限設定など、複雑な要件への対応が求められます。

製造業や小売業など、複数の拠点を持つ企業では、拠点間の情報共有体制の構築が重要です。本社からの連絡事項の伝達や、各拠点の状況報告など、縦横の情報流通を効率化できます。災害時の安否確認や、緊急時の連絡手段としても活用されるため、システムの安定性と可用性（いつでも使える状態）が重視されます。

親会社と子会社、関連会社間での情報共有においても、インストール型の特徴が活かされます。機密性の高い情報を扱う際のセキュリティ要件や、各社の独立性を保ちながらの連携体制の構築が可能です。プロジェクト単位での一時的なグループ作成や、契約期間に応じたアクセス権限の管理なども柔軟に対応できます。

インストール型の導入では、各端末への個別設定や既存システムとの連携など、技術的な課題が複数発生し、事前の準備と対策が重要となります。

社内の全端末で同一バージョンのソフトウェアを維持するためには、組織的な管理体制が必要です。新しいバージョンがリリースされた際の更新スケジュール調整や、古いバージョンを使用している端末の特定作業が発生します。特に、個人所有のスマートフォンやタブレットを業務利用している場合、更新作業の徹底が困難になることがあります。

既存の社内ネットワーク環境に新しいソフトウェアを導入する際、ファイアウォール（外部からの不正アクセスを防ぐ仕組み）の設定変更が必要になることがあります。通信ポートの開放や、プロキシサーバー（社内と外部のネットワークを中継するサーバー）の設定調整など、専門的な知識を要する作業が発生します。設定ミスによってセキュリティホールが生じるリスクもあるため、慎重な作業が求められます。

社内で既に利用している業務システムとの連携を実現するためには、データ形式の統一や連携方法の設計が必要です。顧客管理システムやプロジェクト管理ツールとの情報共有を自動化したい場合、複雑な設定作業が発生することがあります。システム間でのデータの整合性を保つための仕組み作りも重要な課題となります。

組織の階層構造や職務内容に応じた細かな権限設定が必要になると、管理業務が複雑化します。新入社員の権限付与や、異動に伴う権限変更、退職者の権限削除など、人事異動のたびに設定作業が発生します。権限設定のミスによって、機密情報への不適切なアクセスが発生するリスクもあるため、定期的な見直し作業が欠かせません。

各端末で個別にソフトウェアが動作するため、問題の原因特定が困難になることがあります。特定の端末でのみ発生する問題や、端末固有の設定に起因するトラブルなど、多様な問題への対応が必要です。社内のシステム担当者だけでは解決困難な技術的問題が発生した場合の、外部サポートとの連携体制も重要な検討事項となります。

インストール型の導入では、初期費用だけでなく継続的な運用費用も含めた総合的な費用対効果の評価が、経営判断において重要な要素となります。

インストール型では、ライセンス費用やシステム構築費用などの初期投資が大きな割合を占めます。一方で、月額利用料は比較的低く抑えられるため、長期利用において費用メリットが現れます。3年から5年程度の利用を想定した場合、クラウド型との総費用比較を行い、投資回収期間を算出することが重要です。

従業員の増減に伴うライセンス数の調整では、追加購入や不要ライセンスの処理が必要になります。事業拡大期には追加ライセンスの調達期間を考慮した計画が必要で、逆に事業縮小時には使用していないライセンスが固定費として残る可能性があります。季節変動がある業界では、繁忙期の一時的な人員増加に対する柔軟な対応が課題となります。

既存の業務システムとの連携機能を追加する場合、カスタマイズ費用や開発費用が発生します。将来的なシステム更新や機能追加の際にも、連携部分の修正作業が必要になるため、継続的な開発コストを見込む必要があります。システム統合によって得られる業務効率化の効果と、必要な投資額のバランスを慎重に評価することが求められます。

日常的な運用業務には、システム監視、バックアップ管理、ユーザーサポートなどの人件費が含まれます。社内で対応する場合の担当者の作業時間や、外部委託する場合の契約費用を詳細に算出する必要があります。障害対応やセキュリティ対策の強化など、予期しない費用も発生する可能性があるため、予備費の確保も重要な検討事項です。