毎月の経営会議が近づくたびに、会計データをダウンロードし、事業別・部門別に集計し直し、グラフをつくり、PowerPointに貼り付ける。この一連の作業に経営企画や財務の担当者が丸1〜2日を費やしているケースは珍しくありません。問題は単なる工数の浪費にとどまらず、資料作成に追われることで本来やるべき数字の読み解きや次の打ち手の検討が後回しになることです。
この記事は、従業員50〜500名規模の企業で経営企画や財務経理を担当している方を想定しています。専任のデータエンジニアがいない環境でも、会計データの抽出からレポート完成までを大幅に自動化し、毎月の資料作成を半日以内に短縮できる実務ワークフローを紹介します。大規模エンタープライズ向けの全社データ基盤構築や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、会計ソフトからBIダッシュボードへデータが自動で流れ、経営会議用の定型レポートがほぼ手作業なしで更新される仕組みの設計図と、導入の具体的な手順が手に入ります。
Workflow at a glance: 経営会議資料の作成に毎回かかる手作業をなくし差異分析と施策立案に集中できる体制をつくる方法
多くの会計ソフトが出力するデータは、仕訳単位や勘定科目単位の一覧です。一方、経営会議で求められるのは事業別・部門別の売上推移や予実対比のグラフです。この間にあるギャップを埋めるために、担当者がExcelで関数を組み、ピボットテーブルで集計し、グラフを手動で整形するという作業が毎回発生します。
会計ソフト側で部門タグや補助科目を設定していても、経営報告に必要な切り口と完全には一致しないことがほとんどです。たとえば会計上は費用科目で管理しているものを、経営会議では投資と経費に分けて見たいといった要望が出ると、その分類は手作業で行うしかありません。
Excelでの集計手順やグラフの体裁は、特定の担当者の頭の中にだけ存在していることが多いです。マクロやVBAで自動化を試みているケースもありますが、作成者が異動すると誰もメンテナンスできなくなり、結局手作業に戻るという悪循環が起きます。
経営企画部門の本来の役割は、数字を読み解いて経営判断に必要な示唆を出すことです。しかし資料作成に月の前半を費やしてしまうと、差異の原因分析や改善施策の立案に使える時間はごくわずかになります。結果として、経営会議の資料は数字の羅列にとどまり、議論の質が上がらないという状態が続きます。
経営会議資料の自動化で最も大切なのは、会計データの加工ロジックをExcelのセルやマクロの中に閉じ込めず、BIツール側に移すことです。
会計ソフトからデータを取り出し、BIツールで集計・可視化し、そのままレポートとして出力する。この流れを一方通行にすることで、途中で人が手を加える余地をなくします。Excelを中間加工の場として使い続ける限り、誰かがシートを壊す、数式を上書きする、古いファイルを参照するといったミスが毎月起こり得ます。
BIツール上で部門別の集計ルールや予実対比の計算式を定義しておけば、データが更新されるたびに自動で再計算されます。ルールの変更履歴も残るため、前月と今月で集計方法が変わった場合にも追跡できます。Excelのマクロと違い、BIツールの設定はブラウザ上で誰でも確認できるため、属人化のリスクも大幅に下がります。
経営会議資料のすべてを自動化しようとすると、要件定義だけで数か月かかります。まずは毎月必ず作成するPL(損益計算書)の事業別・部門別集計と予実対比グラフの自動化から始めてください。定型部分が自動化されれば、担当者は浮いた時間でコメントや分析を充実させることに集中できます。
月次締め処理が完了したら、マネーフォワード クラウド会計から仕訳データと試算表データをCSV形式でエクスポートします。マネーフォワード クラウド会計にはAPI連携の機能がありますが、まずはCSVエクスポートで始めるのが現実的です。
エクスポート時のポイントは3つです。1つ目は、部門タグを必ず付与した状態でデータを出力することです。部門タグが未設定の仕訳が混在すると、後工程の集計で不明カテゴリが膨らみます。2つ目は、勘定科目の粒度を経営報告に合わせて補助科目まで含めることです。3つ目は、比較用に前年同月のデータも同時にエクスポートしておくことです。
このステップの担当は経理担当者です。月次締め完了後、1営業日以内にエクスポートを完了させるルールにしてください。CSVファイルはクラウドストレージの決まったフォルダに保存し、ファイル名に年月を含める命名規則を決めておきます。
エクスポートしたCSVをGoogle スプレッドシートに取り込み、Looker Studioのデータソースとして接続します。Looker StudioはGoogleが提供する無料のBIツールで、Google スプレッドシートとの連携がスムーズです。
Looker Studio上で行う設定は以下の通りです。まず、事業別・部門別の売上と費用の集計テーブルを作成します。勘定科目と部門タグを軸にして、経営会議で使う分類に変換する計算フィールドを定義します。たとえば、勘定科目コードの範囲指定で売上原価と販管費を分け、さらに投資的支出を別枠にするといったルールです。
次に、予実対比のグラフを作成します。予算データはGoogle スプレッドシートの別シートに月次予算を入力しておき、Looker Studioでブレンド機能を使って実績と結合します。前年同月比の推移グラフも同じダッシュボード上に配置します。
一度ダッシュボードを構築すれば、翌月以降はGoogle スプレッドシートのデータを更新するだけでグラフや集計値が自動で再計算されます。このステップの初期構築は経営企画担当者が行い、所要時間は初回で2〜3日、2回目以降のデータ更新は30分程度です。
Looker StudioにはレポートのPDF出力機能とメール配信のスケジュール設定があります。毎月決まった日にPDFレポートを自動生成し、経営会議メンバーにメールで配信する設定を行います。
PDF出力されるレポートには、事業別PL、部門別費用内訳、予実対比グラフ、前年同月比推移が含まれます。これが従来PowerPointで手作業で作成していた資料の定型部分に相当します。
ただし、経営会議資料には数字だけでなく、差異の要因分析や今後の見通しといったコメントが必要です。この部分は自動化の対象外とし、担当者がLooker Studioのダッシュボードを見ながら別途作成します。定型部分の作成が自動化されたことで、この分析・コメント作成に十分な時間を確保できるようになります。
提出の流れとしては、月次締め完了から3営業日以内にデータ更新とダッシュボード確認を終え、4営業日目にPDFレポート配信とコメント資料の提出を行うスケジュールが目安です。
マネーフォワード クラウド会計を起点にする最大の理由は、日本の中小企業で最も普及しているクラウド会計ソフトの一つであり、部門別の管理が標準機能として備わっている点です。CSVエクスポートの形式が安定しており、毎月同じフォーマットでデータを取り出せるため、後工程の自動化が壊れにくいです。
制約としては、APIの利用にはプランによる制限があること、またエクスポートできるデータの粒度が管理会計専用システムほど細かくない点があります。ただし、従業員500名以下の企業であれば、補助科目と部門タグの組み合わせで経営会議に必要な粒度は十分にカバーできます。
Looker Studioを選ぶ理由は、完全無料で利用でき、Google スプレッドシートとの接続が数クリックで完了する点です。有料のBIツールと比較すると、データの自動取り込みやアラート機能では劣りますが、経営会議資料の定型レポート作成という用途には十分な機能を備えています。
弱みとしては、大量データの処理速度がやや遅いこと、細かいレイアウト調整がPowerPointほど自由にできないことがあります。しかし、数百行〜数千行規模の月次会計データであれば速度は問題になりませんし、レイアウトの自由度よりもデータ更新の自動化による工数削減のほうが実務上のメリットは大きいです。
もう一つの現実的なトレードオフとして、Looker StudioはGoogleアカウントが前提になります。社内でMicrosoft 365を標準利用している場合は、Power BIを代替として検討してください。ワークフローの構造は同じで、データソースがExcel Online、BIツールがPower BIに置き換わるだけです。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| マネーフォワード クラウド会計 | 会計データの管理と部門タグ付き仕訳データのエクスポート | 月額課金 | 導入済みの場合は即日、新規導入の場合は1〜2週間 | 部門タグと補助科目の設定が経営報告の粒度を左右するため、初期設定時に経営企画担当者と勘定科目体系のすり合わせを行うことが重要です。 |
| Looker Studio | 会計データの集計・可視化・定型レポートのPDF出力とメール配信 | 無料枠あり | 初回ダッシュボード構築に2〜3日、翌月以降のデータ更新は30分程度 | Google スプレッドシートをデータソースとして接続します。Googleアカウントが必要です。Microsoft 365環境の場合はPower BIで同様のワークフローを構築できます。 |
経営会議資料の作成を自動化する本質は、毎月繰り返される集計・グラフ作成・転記という定型作業をBIツールに任せ、人間は数字の意味を読み解くことに集中できる体制をつくることです。マネーフォワード クラウド会計からCSVでデータを取り出し、Looker Studioで集計・可視化・レポート配信まで一気通貫で行う仕組みは、専任のデータエンジニアがいなくても構築できます。
最初の一歩として、来月の月次締め後にマネーフォワード クラウド会計から部門タグ付きの試算表CSVをエクスポートし、Google スプレッドシートに取り込んでLooker Studioに接続するところまでを試してください。1つのグラフが自動更新される体験を得れば、残りのダッシュボード構築は自然と進みます。
Mentioned apps: Looker Studio, マネーフォワード クラウド会計
Related categories: BIツール, 会計ソフト
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