多品種少量生産を行う製造業では、製品ごとの原価が見えにくくなるという問題が慢性的に発生します。材料費や外注費といった直接費はまだ追いやすいものの、設備の減価償却費や間接人件費などの間接費をどの製品にどれだけ割り振るかが複雑になり、結果としてどの製品が利益を出していて、どの製品が赤字なのかを正確に判断できなくなります。
この記事は、従業員50〜300名規模の製造業で、生産管理や経理を兼務している管理部門の担当者を想定しています。読み終えると、生産実績データの収集から製品別原価の算出、会計システムへの連携までを一本の流れとして構築でき、月次で製品別の損益を確認できる体制を整えられるようになります。なお、数千品目を超える大規模エンタープライズ向けの全社ERP導入計画や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、生産管理・原価管理・会計の3つのシステムをつなぎ、製品別の原価と粗利を月次で自動集計するワークフローの設計図が手に入ります。
Workflow at a glance: 小ロット製品の原価を製品別に正確に把握し赤字受注を防ぐ方法
小ロット製品の原価が把握できない最大の原因は、必要なデータが3つの別々のシステムに散らばっていることです。生産現場では製造指示書や日報で工数と材料消費を記録しています。購買・在庫部門では仕入単価や在庫評価額を管理しています。経理部門では会計ソフト上で勘定科目ごとに費用を計上しています。この3つが連携していないため、ある製品にかかった本当のコストを知るには、それぞれのシステムからデータを手作業で抜き出し、Excelで突き合わせるしかありません。
直接費は比較的わかりやすいのですが、問題は間接費です。間接費とは、特定の製品に直接ひも付けられない費用のことで、工場の電気代、設備のリース料、品質管理部門の人件費などが該当します。これらを製品ごとに割り振る計算ルールが、担当者の頭の中やExcelのマクロに閉じ込められていることが多く、担当者が異動すると計算方法がわからなくなるという事態が起きます。
原価が見えないまま受注を続けると、実は赤字の製品を作り続けることになります。特に小ロット品は1件あたりの売上が小さいため、赤字であっても全体の数字に埋もれて気づきにくいのが厄介です。一方で、利益率の高い製品に生産リソースを振り向ける判断もできないため、工場全体の収益性が徐々に悪化していきます。月次の損益計算書を見て売上総利益率が下がっていることに気づいても、どの製品が原因なのか特定できないという状況が続きます。
原価を正確に把握するために最も大切なのは、生産現場で発生する実績データを起点にして、原価を自動的に積み上げていく流れをつくることです。手作業の集計を前提にしている限り、データの鮮度も精度も上がりません。
製造指図とは、ある製品を何個つくるかという生産の単位です。この製造指図ごとに、使った材料の量、かかった作業時間、外注に出した費用を記録することが出発点になります。小ロット品であっても、製造指図単位でデータを取れば、1ロットあたりの直接費は自動的に集計できます。
間接費の配賦方法には、作業時間按分、機械稼働時間按分、直接費比例按分など複数の方法があります。理論的にはそれぞれの費目に最適な配賦基準を選ぶべきですが、小ロット製品の原価管理をこれから始める段階では、まず1つの基準に統一することを優先します。FitGapでは、最初の配賦基準として直接作業時間按分をおすすめします。理由は、生産管理システムから作業時間データを取得しやすく、現場の感覚とも一致しやすいためです。精度を上げたくなったら、後から費目ごとに基準を分けていけば十分です。
原価計算の頻度は月次が現実的です。週次で回せれば理想的ですが、購買単価の確定や在庫評価の締めが月次で行われている企業がほとんどのため、まずは月次の締め処理に合わせて製品別原価を算出するサイクルを確立します。
生産管理システムであるTECHS-BKに、製造指図単位で以下の実績データを入力します。担当するのは現場のリーダーまたは生産管理担当者です。
記録する項目は3つです。1つ目は材料消費量で、製造指図に対して実際に使用した材料の品目と数量を入力します。2つ目は作業時間で、工程ごとの直接作業時間を日報として入力します。3つ目は外注費で、外注加工がある場合はその費用を製造指図にひも付けて登録します。
TECHS-BKは個別受注型・多品種少量生産に特化した生産管理システムのため、製造指図単位での実績収集機能が標準で備わっています。入力のタイミングは、作業完了時にその都度入力するのが理想ですが、最低でも日次で入力するルールにします。翌日以降に入力すると記憶が曖昧になり、データの精度が落ちるためです。
月末時点で、その月に完了した製造指図の一覧と、それぞれの直接費の内訳がTECHS-BK上で確認できる状態になります。
月次の締め処理のタイミングで、原価管理システムである原価Proを使って製品別の原価を計算します。担当するのは経理担当者または管理部門の担当者です。
まず、TECHS-BKから当月の製造指図別の実績データをCSVでエクスポートし、原価Proにインポートします。次に、原価Pro上であらかじめ設定しておいた間接費の配賦ルールに基づいて、間接費を各製造指図に自動配賦します。配賦基準は前述のとおり、直接作業時間按分を基本とします。原価Proでは配賦基準のテンプレートを保存できるため、毎月同じルールで計算が回ります。
このステップの成果物は、製造指図ごとの総原価(直接費+間接費)の一覧表です。これを製品コードで集計すれば、製品別の原価が出ます。原価Proから製品別原価のレポートをCSVまたはPDFで出力し、次のステップに渡します。
注意点として、間接費の元データ(電気代、リース料、間接人件費など)は会計ソフト側から取得する必要があります。月次の経費確定後に原価Proへ取り込む手順を、締めスケジュールに組み込んでおくことが重要です。
原価Proで算出した製品別原価を、freee会計の仕訳データおよび売上データと突き合わせて、製品別の粗利を確認します。担当するのは経理担当者と営業部門の管理者です。
具体的には、原価Proから出力した製品別原価のCSVと、freee会計から出力した製品別売上のデータを突き合わせます。freee会計ではタグ機能やセグメント機能を使って売上を製品別に分類できるため、製品コードをタグとして設定しておけば、売上の抽出が容易になります。
突き合わせの結果、製品ごとの粗利額と粗利率が一覧で把握できます。この一覧を月次の経営会議や営業会議で共有し、粗利率が一定の基準を下回っている製品については、値上げ交渉、製造工程の見直し、または受注停止の判断を行います。FitGapでは、粗利率の基準として最低でも15%を目安にすることをおすすめします。これを下回る製品は、赤字リスクが高いと判断して優先的に対策を検討します。
このステップで重要なのは、データを出して終わりにしないことです。製品別損益の一覧を、受注可否の判断基準として営業プロセスに組み込むところまでがワークフローです。
TECHS-BKは個別受注型の多品種少量生産を主な対象として設計されているため、製造指図単位での実績管理が標準機能として組み込まれています。量産向けの生産管理システムでは、ロットサイズが小さいと管理単位が合わず、実績データの粒度が粗くなりがちですが、TECHS-BKではその心配がありません。一方で、TECHS-BK単体では間接費の配賦計算まではカバーしていないため、原価管理の専用システムとの連携が必要になります。また、現場での入力負荷が増えるため、導入初期は入力ルールの定着に時間がかかる点は覚悟が必要です。
原価Proは製造業向けの原価管理に特化したシステムで、間接費の配賦計算を自動化できる点が最大の強みです。配賦基準のテンプレートを保存しておけば、毎月同じルールで計算が回るため、担当者が変わっても結果がぶれません。これにより、属人化していた配賦ルールがシステム上に固定され、再現性のある原価計算が実現します。弱みとしては、初期設定で配賦基準や費目の体系を正しく設計する必要があり、この設計を間違えると出てくる数字の信頼性が下がります。導入時にはベンダーのサポートを活用して、自社の費目体系に合った設定を行うことを強くおすすめします。
freee会計はクラウド会計ソフトとして広く普及しており、タグ機能を使った売上の分類が容易です。製品コードをタグとして設定しておけば、製品別の売上データをすぐに抽出できます。また、APIやCSVでのデータ入出力にも対応しているため、原価Proとのデータ連携がスムーズです。注意点として、freee会計は原価計算そのものを行うツールではないため、製品別原価の算出は原価Proに任せ、freee会計は売上側のデータ提供と最終的な仕訳計上に役割を限定するのが正しい使い方です。製品数が数百を超える場合はタグの管理が煩雑になるため、製品グループ単位でタグを設定するなどの工夫が必要になります。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| TECHS-BK | 生産管理システム | 要問い合わせ | 2〜4か月 | 個別受注型・多品種少量生産に特化。製造指図単位での工数・材料消費の実績入力が標準機能。現場への入力ルール定着に初期1〜2か月を見込む。 |
| 原価Pro | 原価管理システム | 要問い合わせ | 1〜3か月 | 間接費の配賦ルールをテンプレート化し月次で自動計算。導入時に費目体系と配賦基準の設計をベンダーと詰める工程が重要。 |
| freee会計 | 会計ソフト | 月額課金 | 2週間〜1か月 | タグ機能で製品別売上を分類。原価ProからのCSVと突き合わせて製品別粗利を算出。製品数が多い場合はタグ設計を事前に整理する。 |
小ロット製品の原価が見えない問題の根本は、生産実績データが製品単位で集まっていないことにあります。生産管理システムで製造指図ごとの実績を正確に記録し、原価管理システムで間接費を配賦し、会計ソフトの売上データと突き合わせる。この3ステップを月次で回すことで、製品別の粗利が数字として見えるようになり、赤字受注を防ぐ判断材料が手に入ります。
最初の一歩として、今月の製造指図の中から代表的な5製品を選び、材料消費量と作業時間を製造指図単位で記録することから始めてください。全製品を一度にやろうとすると現場の負荷が大きくなりすぎるため、まずは小さく始めてデータの流れを確認し、翌月から対象を広げていくのが確実です。
Mentioned apps: TECHS-BK, 原価Pro, freee会計
Related categories: 会計ソフト, 原価管理システム, 生産管理システム
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