研修の受講履歴がExcelや紙の台帳に散らばり、人事部が毎月のように各部署へ問い合わせて未受講者を手作業で洗い出している。こうした状況は多くの企業で見られますが、放置するとコンプライアンス研修の未受講が監査で指摘されたり、安全衛生教育の漏れが労災リスクに直結したりと、経営に影響する問題へ発展します。特に職種や等級ごとに必須研修が異なる組織では、要件と実績の突合が複雑になり、人力での管理は限界を迎えます。
この記事は、従業員100〜1,000名規模の企業で、研修管理を兼務している人事担当者や総務マネージャーを想定しています。読み終えると、職種・等級ごとの必須研修要件と各社員の受講実績を自動で突合し、未受講者をリアルタイムに把握できるワークフローを設計できるようになります。大規模エンタープライズ向けの全社LMS導入プロジェクトの進め方や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、必須研修の要件定義から未受講者への自動リマインドまでを含む3ステップの運用フローと、それを支えるツール構成が手元に揃います。
Workflow at a glance: 職種・等級ごとの必須研修と受講状況を一元管理し未受講者を自動検知する方法
必須研修の管理が破綻する根本原因は、3種類の情報がそれぞれ別の場所に存在していることです。1つ目は社員の所属・職種・等級といった人事情報で、これは人事システムに入っています。2つ目は職種や等級ごとに定められた必須研修の要件で、多くの場合Excelや社内規程のPDFに記載されています。3つ目は各社員が実際に受講した研修の履歴で、研修ベンダーの受講証明やExcel台帳に散在しています。
この3つを突き合わせて初めて、ある社員が何を受けるべきで何が未受講かが分かります。しかし、突合の仕組みがなければ、人事担当者が手作業で3つの情報源を照らし合わせるしかありません。
手作業での突合は、単に時間がかかるだけではありません。確認のタイミングが四半期に1回や年度末に限られるため、未受講の発見が遅れます。たとえばコンプライアンス研修の受講期限が3月末の場合、2月に初めて未受講者リストを作っても、対象者が数十名いれば全員の受講完了は間に合いません。
さらに、等級変更や異動があった社員の必須研修要件が変わったことに気づかないケースも頻発します。昇格した社員に新たに必要になったマネジメント研修が割り当てられないまま半年が過ぎる、といった事態は珍しくありません。結果として、監査対応で指摘を受けたり、安全教育の不備が事故につながったりするリスクが蓄積します。
この課題を解決する鍵は、社員の所属・職種・等級情報を持つ人事システムを唯一の正として扱い、そこから必須研修の要件を自動で導き出す仕組みを作ることです。
職種がAで等級が3ならばこの研修が必須、という対応表をあらかじめ定義しておき、人事マスタの情報が変わるたびに必須研修の割り当てが自動更新される状態を目指します。これにより、異動や昇格があっても人事担当者が手動で研修要件を見直す必要がなくなります。
要件の割り当てが自動化されても、受講したかどうかの確認が月1回では意味がありません。LMS(学習管理システム、研修のeラーニング配信や受講記録を一元管理するシステム)上の受講完了データと必須要件を日次で突合し、未受講者リストを常に最新に保つことが重要です。突合の頻度が上がるほど、期限切れ前のリマインドが確実に届きます。
未受講者が判明しても、人事担当者が個別にメールを書いて送る運用では、担当者の負荷が高く、送り忘れも起きます。期限の2週間前、1週間前、3日前といったタイミングで自動リマインドが飛ぶ仕組みにすることで、人事担当者は例外対応だけに集中できます。
SmartHRに登録されている社員の所属部署・職種・等級情報を正として使います。SmartHRのカスタム項目機能を活用し、職種×等級の組み合わせごとに必須研修コードを紐づけた対応表を管理します。
具体的な運用としては、人事担当者が年度初めに必須研修の対応表を更新します。新しい研修が追加された場合や、等級体系が変わった場合もこのタイミングで反映します。日常的には、入社・異動・昇格の人事イベントが発生するたびにSmartHR上の社員情報が更新され、それに連動して必須研修の割り当てが変わります。
SmartHRのAPI(外部システムとデータをやり取りする窓口)を通じて、社員ID・氏名・メールアドレス・所属・職種・等級・必須研修コードの一覧を次のステップのLMSへ連携します。連携の頻度は日次のバッチ処理(毎朝決まった時刻に自動実行する処理)で十分です。リアルタイム連携は過剰であり、設定の複雑さに見合いません。
担当者は人事部の社員情報管理担当です。年度初めの対応表更新に半日、日常運用は人事イベント発生時のSmartHR入力のみで追加作業はありません。
etudesはクラウド型のLMSで、eラーニングの配信と受講管理を一元的に行えます。ステップ1でSmartHRから連携された社員情報と必須研修コードをもとに、etudes上で各社員に必須研修コースを自動割り当てします。
社員がetudesにログインすると、自分に割り当てられた必須研修の一覧と受講状況が表示されます。受講が完了するとetudes側で自動的に完了フラグが立ちます。対面研修やオフラインで実施した研修については、研修事務局がetudesの管理画面から手動で受講完了を登録します。この手動登録の運用ルールを明確にしておかないと、対面研修だけが抜け漏れる原因になるため、研修実施後3営業日以内に登録するというルールを設けます。
etudesの管理画面では、必須研修の割り当てに対して未受講の社員を一覧で確認できます。期限付きの研修については、期限までの残日数でフィルタリングし、期限2週間前の未受講者リストを毎週月曜日に人事担当者へ自動メールで送付する設定にします。
担当者は研修事務局(人事部内の研修担当)です。週次で未受講者リストを確認し、対面研修の受講登録漏れがないかをチェックします。所要時間は週30分程度です。
etudesから出力される未受講者データをもとに、Microsoft Power Automateで自動リマインドのフローを構築します。Microsoft Power Automateは、複数のサービスをつないで定型作業を自動化するツールです。
具体的なフローは次のとおりです。毎日午前9時にetudesのAPIまたはCSVエクスポートから未受講者リストを取得します。受講期限まで14日、7日、3日の各タイミングに該当する社員に対して、Microsoft TeamsまたはOutlookで自動リマインドを送信します。リマインドには研修名、受講期限、etudesへのログインURLを含めます。
期限を過ぎても未受講の社員がいる場合は、SmartHRの社員情報から取得した上長のメールアドレス宛てにエスカレーション通知を自動送信します。これにより、人事担当者が個別に上長へ連絡する手間がなくなります。
担当者は人事部の研修担当です。初期設定に半日〜1日かかりますが、運用開始後はフローの実行ログを週1回確認するだけで済みます。エラーが発生した場合(API接続の失敗やメール送信エラー)はMicrosoft Power Automateが自動で通知するため、異常時だけ対応します。
SmartHRを人事マスタとして採用する最大の理由は、入退社・異動・昇格といった人事イベントが日常業務の中で自然に更新される点です。給与計算や社会保険手続きのために正確な情報を維持する動機が組織に内在しているため、研修管理のためだけにデータを二重入力する必要がありません。
APIが公開されているため、LMSや自動化ツールとの連携が技術的に可能です。ただし、API利用には契約プランによる制限がある場合があるため、導入前に確認が必要です。カスタム項目で職種×等級の必須研修対応表を管理する方法はやや力技ですが、100〜1,000名規模であれば対応表の行数も管理可能な範囲に収まります。
弱みとしては、SmartHR自体にはLMS機能や研修管理機能がないため、受講実績の管理は別システムに委ねる必要がある点です。
etudesはアルー株式会社が提供する国産クラウドLMSで、日本語UIと日本企業の研修運用に合わせた設計が特徴です。コース割り当て、受講進捗の可視化、修了証発行といった基本機能が揃っており、必須研修の管理に必要な機能を過不足なくカバーします。
FitGapがetudesを選定した理由は、管理画面の操作が直感的で、ITリテラシーが高くない研修事務局でも運用を回せる点です。海外製の高機能LMSは多機能ゆえに設定が複雑になりがちですが、etudesは必要十分な機能に絞られています。
トレードオフとして、大規模なスキル管理やタレントマネジメントとの統合を求める場合は機能が不足します。あくまで研修の配信と受講管理に特化したツールとして位置づけてください。また、APIの仕様や連携の柔軟性は海外製LMSに比べると限定的な場合があるため、Microsoft Power Automateとの連携ではCSVエクスポートを併用する運用も視野に入れます。
多くの日本企業がMicrosoft 365を導入済みであり、Microsoft Power Automateはその追加コストなし、または低コストで利用できるケースが多い点が最大の強みです。Microsoft TeamsやOutlookとの連携がネイティブに組み込まれているため、リマインド通知の送信先として自然に機能します。
プログラミング不要のビジュアルエディタでフローを構築できるため、人事担当者でも基本的なフローであれば自力で作成・修正できます。ただし、etudesのAPIとの接続部分はHTTPコネクタを使う必要があり、この部分だけは情報システム部門の支援を受けることを推奨します。
弱みとしては、フローが複雑になるとデバッグ(不具合の原因調査と修正)が難しくなる点です。リマインドのロジックはシンプルに保ち、条件分岐を増やしすぎないことが安定運用のコツです。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| SmartHR | 人事マスタとして社員の所属・職種・等級情報を一元管理し、必須研修要件の対応表を保持する | 月額課金 | 2〜4週間(カスタム項目設定・API連携設定含む) | 職種×等級ごとの必須研修対応表をカスタム項目で管理する。API利用の可否は契約プランにより異なるため事前確認が必要。 |
| etudes | eラーニング配信と受講実績の記録・未受講者の自動抽出を行うLMS | 月額課金 | 4〜6週間(コース登録・社員データ連携・運用ルール策定含む) | 対面研修の受講登録は手動運用となるため、研修実施後3営業日以内の登録ルールを事前に策定する。SmartHRとの連携はAPIまたはCSVインポートで実現する。 |
| Microsoft Power Automate | 未受講者データをもとにリマインド通知とエスカレーションを自動実行する | 無料枠あり | 1〜2日(基本フロー構築) | Microsoft 365導入済み環境であれば追加コストなしで利用可能な場合が多い。etudesとの接続にHTTPコネクタを使用する部分は情報システム部門の支援を推奨。 |
必須研修の未受講問題は、情報の分散と手作業の突合という構造的な原因から生じています。SmartHRを人事マスタとして社員情報と必須研修要件を一元管理し、etudesで受講実績を記録し、Microsoft Power Automateで未受講者への自動リマインドとエスカレーションを仕組み化することで、人事担当者の確認作業を大幅に削減しながら、未受講者の早期発見と対応が可能になります。
最初の一歩として、まず現在の職種×等級ごとの必須研修一覧をExcelで整理し、SmartHRのカスタム項目として登録するところから始めてください。この対応表が正確に作れれば、残りのステップは技術的な設定作業であり、段階的に進められます。
Mentioned apps: SmartHR, etudes, Microsoft Power Automate
Related categories: RPA, タレントマネジメントシステム(HCM), 学習管理システム(LMS)
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