多くの企業では、過去に制作したブログ記事やホワイトペーパーが数百本単位で蓄積されています。しかし、どの記事の情報が古くなっているのか、どの素材を別の形式に転用できるのかを把握できていないケースがほとんどです。結果として、制作リソースは常に新規コンテンツに集中し、既存の資産が活かされないまま放置されています。古い情報がそのまま公開され続ければ企業の信頼性は下がりますし、過去に作った素材とほぼ同じ内容を一から作り直す無駄も発生します。
この記事は、従業員50〜300名規模の企業で、マーケティング担当やコンテンツ運用を兼務している広報・企画部門の方を想定しています。読み終えると、既存コンテンツの棚卸しから更新・転用の優先順位付けまでを、月1回の定例作業として回せるワークフローが手に入ります。大規模エンタープライズ向けの全社CMS刷新プロジェクトや、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、既存コンテンツの優先順位付きリストと、月次で回せる棚卸し・再活用の運用サイクルを自社に導入するための具体的な手順が手に入ります。
Workflow at a glance: 過去のブログやホワイトペーパーを棚卸しして再活用の優先順位を可視化し制作コストの無駄を減らす方法
コンテンツの再活用が進まない最大の原因は、必要な情報が別々のシステムに分かれていることです。具体的には、コンテンツ本体はWordPressなどのCMSに、制作途中の原稿やホワイトペーパーのPDFはGoogleドライブやファイルサーバーに、アクセス数や検索順位のデータはGoogle Analyticsに、それぞれ保管されています。この3つを突き合わせないと、ある記事が今でも読まれているのか、情報が古くなっていないか、別の形式に転用する価値があるのかを判断できません。しかし、3つのシステムを毎回手作業で照合するのは現実的ではなく、結局誰もやらないまま放置されます。
仮にデータを集められたとしても、どの記事を優先的に更新すべきかの判断基準が個人の感覚に依存しているケースが大半です。ある担当者は公開日が古い順に更新しようとし、別の担当者はアクセス数が多い記事から手をつけようとします。基準が統一されていないため、チーム内で優先順位の合意が取れず、結局は目の前の新規案件に時間を使ってしまいます。
コンテンツマーケティングの現場では、新しい記事を公開した本数がKPIになっていることが多く、既存記事の更新や転用は成果として評価されにくい構造があります。この評価構造が変わらない限り、仕組みだけ整えても運用は定着しません。ワークフローの中に、既存コンテンツの再活用によるアクセス改善を数値で示す仕組みを組み込む必要があります。
既存コンテンツの再活用を体系的に進めるには、すべての記事を同じ物差しで評価する仕組みが必要です。FitGapでは、次の3つの指標を掛け合わせたスコアリングを推奨します。
公開から12か月以上経過し、一度も更新されていない記事は情報の鮮度が低下している可能性が高いです。CMSから公開日と最終更新日を取得し、経過日数を自動計算します。経過日数が長いほどスコアが高くなり、優先的に更新候補として浮上します。
アクセスが多い記事ほど、更新した際のインパクトが大きくなります。逆にアクセスがほぼゼロの記事は、更新よりも統合や削除を検討すべきです。Google Analyticsから直近90日間のデータを取得し、集客力の高低を判定します。
3,000文字以上のブログ記事はホワイトペーパーやメールマガジンへの転用候補になります。逆に、既存のホワイトペーパーを分割してブログ記事にすることも可能です。文字数とコンテンツ形式をCMSから取得し、転用の方向性を自動で分類します。
この3指標を組み合わせることで、更新が必要な記事、転用価値が高い記事、統合・削除を検討すべき記事を機械的に分類できます。判断が属人化しないため、担当者が変わっても同じ基準で運用を続けられます。
まず、WordPressの管理画面から全記事の一覧をエクスポートします。WordPressの標準エクスポート機能でXML形式のデータを取得し、記事タイトル、公開日、最終更新日、カテゴリ、文字数を抽出します。記事数が200本を超える場合は、WordPressのREST APIを使ってJSON形式で取得するほうが後続の処理が楽です。
担当者はマーケティング担当者1名で十分です。初回は全記事を対象にエクスポートし、2回目以降は前回の棚卸し以降に更新された記事だけを差分で取得します。この作業は月初の1日目に実施し、所要時間は初回で約1時間、2回目以降は15分程度です。
エクスポートしたデータは、次のステップで使うLooker Studioに取り込むため、Googleスプレッドシートに整形して格納します。列の構成は、記事ID、タイトル、URL、公開日、最終更新日、カテゴリ、文字数、コンテンツ形式(ブログ/ホワイトペーパー/事例)の8項目です。
Googleスプレッドシートに格納したコンテンツ台帳と、Google Analyticsの直近90日間のアクセスデータをLooker Studioに接続します。Looker StudioはGoogleスプレッドシートとGoogle Analyticsの両方をデータソースとして直接読み込めるため、追加のツールは不要です。
ダッシュボード上で、以下の計算フィールドを作成します。鮮度スコアは、最終更新日から今日までの経過日数を365で割った値です。1.0を超えていれば1年以上未更新ということになります。集客力スコアは、直近90日間のページビュー数を全記事の平均ページビュー数で割った値です。1.0を超えていれば平均以上のアクセスがある記事です。転用可能性は、文字数が3,000以上かつコンテンツ形式がブログの場合にホワイトペーパー転用候補、ホワイトペーパーかつ文字数が5,000以上の場合にブログ分割候補、とラベルを付けます。
この3指標を組み合わせて、記事ごとに推奨アクション(優先更新/転用/統合検討/現状維持)を自動表示するテーブルを作ります。具体的には、鮮度スコアが1.0以上かつ集客力スコアが1.0以上の記事は優先更新、鮮度スコアが1.0未満かつ転用可能性ラベルがある記事は転用候補、集客力スコアが0.2未満かつ鮮度スコアが1.5以上の記事は統合検討、それ以外は現状維持とします。
この作業は月初の2日目に実施します。初回のダッシュボード構築に2〜3時間かかりますが、一度作れば毎月の更新はデータソースの再読み込みだけで完了するため、5分程度です。
Looker Studioのダッシュボードで可視化された推奨アクション付きの記事リストを、Notionのデータベースに転記します。Notionのデータベースには、記事タイトル、推奨アクション、担当者、期限、ステータス(未着手/作業中/完了/見送り)のプロパティを設定します。
月初の3日目に、マーケティングチームの定例ミーティング(30分)でダッシュボードを画面共有しながら、優先更新と転用候補の記事について担当者と期限を決めます。1か月あたりの作業量の目安は、優先更新が3〜5本、転用が1〜2本です。これ以上詰め込むと新規制作に支障が出るため、無理のない本数に絞ります。
各担当者はNotionのデータベース上でステータスを更新しながら作業を進めます。月末にステータスを集計し、完了した記事のアクセス数変化をLooker Studioで確認します。更新後にアクセスが改善した記事の数を記録することで、既存コンテンツの再活用が成果として可視化され、新規制作バイアスへの対抗材料になります。
WordPressは日本国内で最も利用されているCMSであり、多くの企業がすでに導入済みです。REST APIを通じて記事データをJSON形式で取得できるため、外部ツールとの連携が容易です。ただし、WordPressの標準機能だけではアクセス解析データを持っていないため、Google Analyticsとの組み合わせが前提になります。また、ホワイトペーパーのPDFなどWordPress外で管理しているコンテンツは、手動でスプレッドシートに追記する必要があります。WordPress以外のCMS(例えばはてなブログやnoteなど)を使っている場合でも、記事データをCSVやAPIで取得できれば同じワークフローを適用できます。
Looker StudioはGoogleが提供する無料のBIツールで、Googleスプレッドシート、Google Analytics、Google Search Consoleなど、Google製品との接続が標準で用意されています。コンテンツ台帳とアクセスデータを1つのダッシュボードで突き合わせるという今回の用途には最適です。弱点としては、データソースがGoogle製品以外の場合は接続にひと手間かかる点と、複雑な計算ロジックを組む場合は計算フィールドの記述がやや煩雑になる点があります。ただし、今回のスコアリングは四則演算と条件分岐だけで実現できるため、専門的なスキルは不要です。
Notionはデータベース機能を持つドキュメントツールで、記事ごとの推奨アクション、担当者、期限、ステータスを一覧で管理できます。フィルターやソート機能を使えば、自分が担当する未着手タスクだけを表示するといった運用も簡単です。弱点は、Looker Studioからの自動連携が標準では用意されていないため、月次の転記作業が手動になる点です。記事数が多い場合はNotion APIを使って自動化することも可能ですが、月に10本程度の対象記事であれば手動でも5分で終わるため、最初から自動化に投資する必要はありません。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| WordPress | コンテンツ資産の原本管理と記事データのエクスポート | 無料枠あり | 既存環境をそのまま利用(追加導入不要) | REST APIまたは標準エクスポート機能で記事データをJSON/XML形式で取得する。WordPress以外のCMSでもCSVエクスポートが可能であれば代替できる。 |
| Looker Studio | コンテンツ台帳とアクセスデータの突き合わせ・スコアリング・可視化 | 無料枠あり | 初回ダッシュボード構築に2〜3時間、月次運用は5分 | GoogleスプレッドシートとGoogle Analyticsをデータソースとして接続する。計算フィールドで鮮度・集客力・転用可能性の3指標を算出し、推奨アクションを自動表示する。 |
| Notion | 更新・転用タスクの割り振りと進捗管理 | 無料枠あり | データベース初期設定に30分、月次運用は定例会議30分+転記5分 | データベースに記事タイトル・推奨アクション・担当者・期限・ステータスのプロパティを設定する。対象記事が月10本程度なら手動転記で十分だが、Notion APIで自動化も可能。 |
既存コンテンツの再活用が進まない根本原因は、コンテンツ本体、アクセスデータ、タスク管理が別々のシステムに分かれていて、優先順位を判断する物差しがないことです。WordPressからコンテンツ台帳を取得し、Looker Studioで3指標スコアを自動算出し、Notionでタスクとして管理する。この3ステップを月1回のサイクルで回すことで、どの記事を更新すべきか、どの素材を転用できるかが機械的に判断でき、制作リソースの無駄を減らせます。
最初の一歩として、今月中にWordPressから全記事の一覧をエクスポートし、Googleスプレッドシートに整形するところから始めてください。台帳さえできれば、ダッシュボードの構築は半日で完了します。
Mentioned apps: Looker Studio, WordPress, Notion
Related categories: BIツール, ナレッジマネジメントツール, ホームページ作成ソフト
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