多くの企業で、各部門が独自にSaaSを契約し、全社で何にいくら支払っているのか誰も把握できないという問題が深刻化しています。経理部門はクレジットカード明細や請求書から断片的にしか支出を追えず、情シス部門はIT資産台帳に載っていないSaaSの存在すら知りません。この状態が続くと、同じ機能を持つツールを複数部門が別々に契約していたり、退職者のアカウントに毎月課金が発生し続けたりと、年間で数百万円規模の無駄が積み上がります。
この記事は、従業員50〜500名規模の企業で、SaaSの契約管理やIT予算の取りまとめを兼務している情シス担当者、あるいは経理・管理部門のマネージャーを想定しています。読み終えると、散在するSaaS契約情報を一か所に集約し、毎月の棚卸しと更新判断を回せる実務ワークフローを自社に導入できるようになります。なお、数千名規模のエンタープライズ向けの全社IT統制プロジェクトや、個別SaaS製品の機能比較レビューは扱いません。
本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、SaaS契約の全社一覧表と月次棚卸しの運用フローが手元に揃い、来月の契約更新から即座に判断できる状態になります。
Workflow at a glance: 部門ごとにバラバラなSaaS契約の全社コストを可視化し重複契約と未使用ライセンスを撲滅する方法
SaaSは導入のハードルが低いため、現場の担当者がクレジットカード1枚で契約できてしまいます。マーケティング部門がデザインツールを、営業部門がCRMを、開発部門がプロジェクト管理ツールを、それぞれ独自に契約します。稟議や購買フローを通さないケースも多く、契約した本人以外は何を使っているのか知りません。これがいわゆるシャドーITと呼ばれる状態で、情シスの管理台帳に載らないSaaSが社内に増え続ける原因です。
経理部門はクレジットカード明細や銀行振込の記録から支払い事実を確認できますが、それがどの部門のどのSaaS契約に紐づくのかを特定するには、毎回担当者に問い合わせる必要があります。経費精算システムには支払い金額は記録されていても、契約期間やライセンス数といった情報は含まれていません。結果として、支払いデータと契約データが別々の場所に存在し、誰も全体像を把握できない状態が生まれます。
多くの企業では、SaaSの棚卸しを定期的に行う運用ルールがありません。年に一度の予算策定時に慌てて各部門にヒアリングしても、回答が集まるまでに数週間かかり、集まった情報も不正確です。その間にも自動更新で契約が延長され、使っていないツールへの課金が続きます。棚卸しの仕組みがないこと自体が、コスト膨張の最大の原因です。
SaaSコストの可視化というと、高機能なダッシュボードや分析ツールを思い浮かべるかもしれません。しかし、最も重要なのは、すべてのSaaS契約情報が一か所に集まっている状態を作り、それを定期的に確認する仕組みを回すことです。
初回の棚卸しで全社のSaaS契約を洗い出し、台帳に登録するのは一度きりの作業です。しかし、台帳は作った瞬間から陳腐化が始まります。新しい契約が追加され、退職者のアカウントが放置され、プランが変更されます。だからこそ、月次で台帳を更新する運用サイクルが不可欠です。台帳の精度を維持する仕組みがなければ、どんなに優れたツールを導入しても半年後にはまた見えない状態に戻ります。
台帳に登録されていないSaaSを発見する最も確実な方法は、支払いデータとの突合です。経費精算システムやクレジットカード明細に記録された支払い先のうち、台帳に存在しないものがあれば、それは管理外のSaaSです。この逆引きチェックを毎月行うことで、シャドーITを早期に発見できます。
最初に行うのは、現在契約しているSaaSをすべて洗い出し、一元管理できる台帳に登録する作業です。ジョーシスはSaaS管理に特化したツールで、各SaaSとのAPI連携やシングルサインオンの認証ログから、社内で利用されているSaaSを自動検出する機能を備えています。
具体的な手順として、まずジョーシスを導入し、Google WorkspaceやMicrosoft 365などの主要サービスと連携させます。これにより、社員がログインしているSaaSの一覧が自動的に取得されます。自動検出で拾えないもの、たとえば個人のクレジットカードで契約しているサービスについては、各部門の責任者に一度だけヒアリングシートを配布して回収します。
台帳に登録する項目は、サービス名、契約部門、契約者名、月額または年額の費用、ライセンス数、契約更新日、支払い方法の7項目です。この初回登録は情シス担当者が主導し、1〜2週間で完了させます。完璧を目指す必要はなく、まず8割の精度で台帳を作ることが重要です。残りの2割は次のステップで補完します。
台帳ができたら、次は支払いデータとの突合です。マネーフォワード クラウド経費に記録されているSaaS関連の支払いデータをCSVでエクスポートし、ジョーシスの台帳と照合します。
突合の方法はシンプルです。マネーフォワード クラウド経費から直近3か月分の経費データをCSVで出力し、支払い先名にSaaSベンダー名が含まれるものを抽出します。次に、ジョーシスの台帳に登録されているサービス一覧と突き合わせ、台帳に存在しない支払い先をリストアップします。これが管理外のSaaS、つまりシャドーITの候補です。
この突合作業は、毎月月初に経理担当者が実施します。所要時間は慣れれば30分程度です。発見した管理外SaaSは、契約部門に確認のうえジョーシスの台帳に追加登録するか、不要であれば解約を依頼します。法人クレジットカードの明細も同様に突合対象に含めると、検知精度がさらに上がります。
毎月15日を棚卸し日と決め、ジョーシスの台帳データをもとに月次レポートを作成します。レポートに含める内容は、全社SaaS支出の合計額と前月比、部門別の支出内訳、翌月に更新期限を迎える契約の一覧、利用率が低いサービスのリストの4点です。
ジョーシスでは各SaaSのアカウント数と実際のログイン状況を確認できるため、ライセンスを持っているが30日以上ログインしていないユーザーを未使用ライセンスとして抽出します。この未使用ライセンスのリストが、コスト削減の最大の材料になります。
レポートは情シス担当者が作成し、経理部門と各部門の責任者に共有します。更新期限が翌月に迫っている契約については、継続・プラン変更・解約の判断を部門責任者に求め、期限の2週間前までに回答を得るルールを設けます。この月次サイクルを3か月続けると、全社のSaaSコスト構造が明確になり、年間予算の策定精度が大幅に向上します。
ジョーシスの最大の強みは、SaaS管理に特化している点です。汎用的なIT資産管理ツールではPCやサーバーの管理が主目的であり、SaaSの契約情報やアカウント利用状況の追跡は手作業になりがちです。ジョーシスはGoogle WorkspaceやMicrosoft 365、Salesforceなど主要SaaSとのAPI連携を備えており、アカウントの発行・削除状況やログイン頻度を自動で取得できます。
一方で、ジョーシスだけでは支払い金額の正確な把握が難しいケースがあります。特に、請求書払いや個人立替で処理されているSaaSの費用は、ジョーシス側には反映されません。この弱点を補うのが経費精算システムとの突合です。また、API連携に対応していないマイナーなSaaSは手動登録が必要になるため、初回の台帳構築時には一定の手作業が発生する点は理解しておく必要があります。
マネーフォワード クラウド経費は、経費精算の本来の機能に加えて、支払いデータの蓄積という副次的な価値を持っています。社員が立て替えたSaaS費用や、法人カードで決済されたサブスクリプション料金が経費データとして記録されるため、これを台帳と突合することでジョーシスの自動検出では拾えないSaaSを発見できます。
注意点として、マネーフォワード クラウド経費のデータだけでは、支払い先がSaaSなのかそれ以外のサービスなのかを自動判別できません。突合作業には人の目による確認が必要です。また、部門の予算から直接支払われているSaaS(経費精算を通さないもの)は、このルートでは検知できないため、法人カード明細や銀行振込データも併用する運用が望ましいです。CSVエクスポート機能を使った突合は手作業ですが、月1回30分程度の工数で十分実行可能な範囲です。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| ジョーシス | SaaS台帳の一元管理と利用状況の可視化 | 無料枠あり | 1〜2週間 | Google WorkspaceやMicrosoft 365とのAPI連携で自動検出を開始。API非対応のSaaSは手動登録が必要。初回の台帳構築に最も工数がかかるが、以降は月次更新のみ。 |
| マネーフォワード クラウド経費 | 支払い実績データの蓄積とシャドーIT検知の突合元 | 月額課金 | 導入済みの場合は即日利用可能 | 既に経費精算で利用中であれば追加設定は不要。CSVエクスポート機能を使い、月次でジョーシスの台帳と突合する運用を組む。法人カード明細との連携も活用すると検知精度が向上。 |
SaaSコストの可視化は、高度なツールや大規模なプロジェクトがなくても実現できます。ジョーシスでSaaS台帳を一元管理し、マネーフォワード クラウド経費の支払いデータと毎月突合する。このシンプルなサイクルを回すだけで、重複契約や未使用ライセンスが浮き彫りになり、具体的な削減アクションにつなげられます。
最初の一歩として、今週中にジョーシスの無料トライアルに申し込み、Google WorkspaceまたはMicrosoft 365と連携させてください。自動検出されたSaaSの一覧を見るだけで、自社のSaaS利用状況がどれだけ把握できていなかったかが実感できます。その一覧が、全社SaaSコスト最適化の出発点になります。
Mentioned apps: ジョーシス, マネーフォワード クラウド経費
Related categories: IT資産管理ツール, 経費精算システム
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