システムを導入するとき、多くの企業では初期費用だけで予算承認を通しています。しかし導入後には、ライセンスの年次更新費、保守サポート費、運用にかかる人件費が毎年発生します。これらが予算計画に反映されないまま走り出すと、年度途中で想定外の支出が表面化し、他の投資計画を圧迫する事態に陥ります。この問題は、クラウドサービスの普及でサブスクリプション型の費用が増えた今、以前にも増して深刻になっています。
この記事は、従業員50〜500名規模の企業で、情報システム部門や経営企画、管理部門を兼務している担当者を想定しています。読み終えると、システムのライフサイクル全体のコストを一元的に把握し、予算申請の段階で運用コストまで含めた投資判断ができるワークフローを自社に導入できるようになります。大規模エンタープライズ向けの全社IT投資ポートフォリオ管理や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、システムごとの初期費用・運用費用・保守費用を統合したライフサイクルコスト管理シートと、それを予算申請に反映する運用ルールが手元に揃います。
Workflow at a glance: システム導入後の運用コストを予算計画に組み込みトータルコストの見える化で投資判断の精度を上げる方法
多くの企業では、システム導入時の予算申請は稟議書や予算申請書で処理されます。一方、導入後のライセンス更新費や保守費用は契約管理台帳や経理部門の仕訳で処理されます。さらに、運用にかかる人件費は人事・労務の工数管理で把握されます。この3つがそれぞれ別のシステム、別の部門、別のタイミングで管理されているため、1つのシステムに対してライフサイクル全体でいくらかかっているのかを誰も把握できない状態になります。
予算承認の場では、初期費用の大小が判断基準になりがちです。クラウドサービスは初期費用が低いため承認が通りやすい一方、月額・年額のランニングコストが5年間で初期費用の数倍に膨らむケースは珍しくありません。承認時にランニングコストの5年試算を求めるルールがなければ、この構造は繰り返されます。
トータルコストが見えないまま投資判断を続けると、年度予算の中盤以降に想定外の支出が積み上がります。その結果、本来優先すべき新規投資の予算が削られたり、既存システムの保守契約を更新できずにサポート切れのリスクを抱えたりします。経営層からの信頼も損なわれ、IT投資そのものへの理解が後退する悪循環に陥ります。
トータルコストの見える化で最も大切なのは、システムごとに初期費用・運用費用・保守費用を1つの台帳にまとめ、予算申請の前段階で必ず参照する仕組みを作ることです。
システムにかかるコストは、次の3層に分けて記録します。第1層は初期費用で、ライセンス購入費、導入支援費、初期設定の外注費などです。第2層は定常運用費で、月額・年額のサブスクリプション料金、保守サポート費、クラウドの従量課金分です。第3層は人的運用費で、運用担当者の工数を時間単価で換算した金額です。この3層を合算したものがライフサイクルコストになります。
台帳を作るだけでは形骸化します。予算申請の承認フローの中に、ライフサイクルコスト試算シートの添付を必須条件として組み込むことが重要です。承認者は初期費用だけでなく、3年分または5年分のトータルコストを見たうえで判断できるようになります。
このワークフローは、月に1回の定期更新と、予算申請時の都度確認で運用します。情報システム担当者が主担当となり、経理担当者と連携して進めます。
まず、自社で利用しているシステムやクラウドサービスの一覧を棚卸しします。LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版を使い、社内で利用されているソフトウェアやクラウドサービスのライセンス情報を収集します。ここで重要なのは、単にツール名を並べるだけでなく、各システムの契約形態(買い切り・サブスクリプション・従量課金)、契約更新日、月額・年額の金額、保守サポート契約の有無と金額を1件ずつ記録することです。
情報システム担当者が月に1回、新規導入や契約変更がないかを確認し、台帳を最新の状態に保ちます。LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版のライセンス管理機能で検出された未把握のソフトウェアがあれば、このタイミングで台帳に追加します。野良サブスクリプション(部門が独自に契約したクラウドサービス)の発見にも役立ちます。
ステップ1で集約したコスト情報をもとに、Backlogのプロジェクト上にシステムごとのライフサイクルコスト試算を作成します。Backlogの課題(チケット)を1システム1件で作成し、カスタム属性に初期費用、年間運用費、年間保守費、運用工数(月間時間数×時間単価)を入力します。課題のマイルストーンに契約更新日を設定しておくと、更新時期が近づいたときに自動で通知が届きます。
ここでのポイントは、Backlogの課題に3年分・5年分のトータルコストをコメントまたはWikiに記載しておくことです。初年度の費用だけでなく、2年目以降に保守費用が増額する契約や、利用ユーザー数の増加に伴う従量課金の増加見込みも含めて試算します。この試算シートが、次のステップで予算申請時の添付資料になります。
情報システム担当者が月次でBacklogの各課題を巡回し、契約変更や料金改定があれば試算を更新します。更新履歴がBacklog上に残るため、過去の見積もりと実績の乖離を後から検証できます。
マネーフォワード クラウド会計で、システム関連の費用を勘定科目や補助科目で分類し、実際に発生した費用を記録します。ここでは、Backlog上のライフサイクルコスト試算と、マネーフォワード クラウド会計上の実績値を四半期に1回突合します。
具体的には、Backlogに記載した年間運用費の試算値と、マネーフォワード クラウド会計の該当科目の実績値を比較します。乖離が10%以上ある場合は、原因を調査してBacklog側の試算を修正します。この突合作業により、次年度の予算申請時に使う試算の精度が回を重ねるごとに向上します。
経理担当者が四半期ごとにマネーフォワード クラウド会計から該当科目の実績データをエクスポートし、情報システム担当者に共有します。情報システム担当者はBacklogの試算と照合し、差異があれば課題のコメントに記録します。この引き継ぎを定例化することで、予算と実績のズレを早期に発見できます。
IT資産管理ツールを使わずに手作業で棚卸しをすると、部門ごとに契約したクラウドサービスや、個人が試用のまま使い続けているツールが漏れます。LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版は、端末にインストールされたソフトウェアやブラウザ経由で利用しているSaaSを検出できるため、台帳の網羅性が格段に上がります。一方、SaaS検出の精度はブラウザ拡張やログ取得の設定に依存するため、導入直後は検出漏れがないか手動での確認も併用してください。また、エージェントのインストールが必要なため、BYODの端末が多い環境では対象範囲の検討が必要です。
Backlogをライフサイクルコスト管理に使う最大の利点は、課題ごとにコメント履歴が残り、試算の変遷を追跡できる点です。スプレッドシートでも同様の管理は可能ですが、更新履歴の追跡やマイルストーンによる契約更新通知はBacklogのほうが確実です。カスタム属性でコスト項目を構造化できるため、集計や検索もしやすくなります。ただし、Backlogは本来プロジェクト管理ツールであるため、財務分析に特化した機能はありません。複雑なシミュレーションが必要な場合は、Backlogから情報をエクスポートしてスプレッドシートで加工する運用が現実的です。
予算の試算は、実績データとの突合なしには精度が上がりません。マネーフォワード クラウド会計は、銀行口座やクレジットカードとの自動連携により、支払い実績が自動で取り込まれます。勘定科目の設定でシステム関連費用を分類しておけば、四半期ごとの突合作業が効率化されます。注意点として、補助科目の設計が粗いとシステム単位での実績抽出が難しくなるため、導入時にシステム名を補助科目として設定しておくことを推奨します。また、マネーフォワード クラウド会計のプランによってはエクスポート機能に制限がある場合があるため、事前に確認してください。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版 | IT資産の棚卸しとライセンス情報の収集 | 月額課金 | 1〜2週間 | エージェントを各端末にインストールする必要があります。BYODの端末が多い場合は対象範囲を事前に決めてください。SaaS検出機能の設定も初期段階で行います。 |
| Backlog | システムごとのライフサイクルコスト試算と契約更新管理 | 月額課金 | 1〜3日 | プロジェクトを1つ作成し、カスタム属性に初期費用・年間運用費・年間保守費・運用工数の項目を設定します。マイルストーンに契約更新日を登録してください。 |
| マネーフォワード クラウド会計 | システム関連費用の実績記録と試算との突合 | 月額課金 | 1〜2週間 | システム名を補助科目として設定し、費用の分類を細かくしておくことが重要です。銀行口座・クレジットカードの自動連携を有効にしてください。 |
システム導入後の運用コストが予算に反映されない問題は、IT資産の棚卸し、コスト試算の一元管理、実績との突合という3つの作業を定例化することで解決できます。LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版で資産を網羅的に把握し、Backlogでシステムごとのライフサイクルコストを管理し、マネーフォワード クラウド会計の実績データで試算の精度を高めるサイクルを回すことで、予算申請の段階でトータルコストに基づいた投資判断ができるようになります。
最初の一歩として、まずは自社で利用しているシステムを10件だけ選び、Backlogに課題を作成して3年分のコスト試算を記入してみてください。その作業を通じて、どの情報が不足しているか、どの部門との連携が必要かが具体的に見えてきます。
Mentioned apps: LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版, Backlog, マネーフォワード クラウド会計
Related categories: IT資産管理ツール, タスク管理・プロジェクト管理, 会計ソフト
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