企業が成長するにつれて、営業資料は営業部のクラウドストレージに、技術仕様書は開発部のファイルサーバに、契約書は法務部の文書管理システムに、議事録は各チームのチャットツールにと、文書の保管場所が部門ごとにバラバラになっていきます。ある情報を探すために3つも4つもシステムを開いて手作業で検索し、結局見つからず同僚に聞いて回るという非効率が日常化している企業は少なくありません。
この記事は、従業員50〜500名規模の企業で、情報システム部門や総務・管理部門を兼務しながら社内の文書管理を任されている担当者を想定しています。読み終えると、散在する文書を一つの窓口から横断検索できるワークフローの全体像と、各ステップで使うツールの役割が理解できます。大規模エンタープライズ向けの全社DX計画や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、自社の文書散在状況を整理し、横断検索環境を立ち上げるための具体的な手順書として使えるワークフローが手に入ります。
Workflow at a glance: 部門ごとに散在する文書を横断検索できる環境を構築し情報探索の時間浪費と知見の埋没を防ぐ方法
各部門が自分たちの業務に最適なツールを選ぶこと自体は合理的です。営業部はお客様への提案スピードを重視してBox、開発部はバージョン管理の都合でファイルサーバ、法務部はアクセス権限の厳密さからNotePMといった具合に、それぞれの判断は正しいのです。しかし、この部門最適の積み重ねが、全社視点では検索不能という深刻な問題を引き起こします。
問題の根本は、各システムの検索機能がそのシステム内の文書しか対象にしないことです。Boxの検索窓でファイルサーバの技術仕様書は見つかりませんし、NotePMの検索でBoxの営業資料は出てきません。結果として、ある案件に関連する情報を集めるには、人間が頭の中で保管場所の当たりをつけ、複数のシステムを順番に開いて検索するしかなくなります。
情報探索にかかる時間は、1回あたりは数分から十数分程度に見えます。しかし、これが1日に何度も、全社員に発生すると、年間では膨大な工数になります。さらに深刻なのは、過去に同じ課題を解決した資料が見つからないために、同じ調査や検討をゼロからやり直すケースです。提案書のひな形が見つからず一から作り直す、過去のトラブル対応記録が見つからず同じ失敗を繰り返す、契約条件の前例が見つからず不利な条件で合意してしまうといった実害が、日々静かに発生しています。
多くの企業では、社歴の長いベテラン社員がどの情報がどこにあるかを経験的に知っていて、事実上の人間検索エンジンとして機能しています。この状態は、そのベテランが異動や退職した瞬間に組織の検索能力が一気に低下するリスクを抱えています。属人的な知識に頼る情報探索は、組織として持続可能ではありません。
文書の横断検索を実現しようとすると、すべての文書を一つのシステムに移行するという発想になりがちです。しかし、この方法は現実的ではありません。各部門には既存のツールを使い続ける業務上の理由があり、全社移行には膨大な時間とコストがかかるうえ、現場の反発も避けられません。
FitGapがおすすめするのは、各部門の保管場所はそのまま維持しつつ、その上に横断検索のレイヤーを被せるアプローチです。具体的には、各システムの文書データを一箇所に集約するパイプラインを作り、集約先に対して自然言語で検索できるAI検索ツールを接続します。現場の業務フローを変えずに、検索体験だけを劇的に改善できるのがこのアプローチの最大の利点です。
すべての文書を完全にインデックス化し、リアルタイムで同期するのが理想ですが、初期段階でそこまで作り込む必要はありません。まずは利用頻度の高い文書カテゴリ(営業資料、議事録、技術仕様書など)に絞って横断検索を立ち上げ、効果を実感してから対象を広げていくのが成功への近道です。
最初に行うのは、文書データの物理的な集約です。すでにBoxを使っている部門はそのまま、ファイルサーバやローカルに保管している部門の文書はBoxへコピーまたは同期します。Boxを集約先に選ぶ理由は、部門ごとのアクセス権限を細かく設定できること、そしてAPIを通じて外部ツールからファイルの内容を取得しやすいことです。
具体的な作業としては、まず各部門の文書保管場所を棚卸しします。部門名、保管場所(ファイルサーバのパス、使用中のクラウドサービス名)、主な文書の種類、おおよそのファイル数を一覧にします。次に、Box上に部門ごとのフォルダ構造を作成し、Box Driveやアップロード機能を使って文書を移行します。ファイルサーバからの移行にはBox公式の移行ツールが使えます。この段階では完全な移行を目指さず、検索ニーズの高い文書カテゴリから優先的に進めてください。
担当者は情報システム部門の担当者が主導し、各部門から1名ずつ協力者を出してもらう形が現実的です。初回の集約作業は1〜2週間、その後は各部門が通常業務の中でBoxに保存する運用に切り替えます。
Boxに文書が集まったら、次はAI検索ツールであるGleanを接続します。GleanはBoxをはじめとする複数のクラウドサービスと直接連携でき、文書の内容を自動的に読み取ってインデックス(検索用の索引)を作成します。
設定手順はシンプルです。Gleanの管理画面からBoxコネクタを有効にし、対象フォルダを指定するだけで、Gleanが自動的に文書を読み込み始めます。PDF、Word、Excel、PowerPointなど主要なファイル形式に対応しており、文書内のテキストを解析して検索可能な状態にします。初回のインデックス作成にはファイル数に応じて数時間から1日程度かかりますが、その後は新規ファイルや更新ファイルを自動的に検出して差分だけを処理します。
重要なのはアクセス権限の引き継ぎです。GleanはBoxで設定されたアクセス権限をそのまま反映するため、営業部の社員が法務部の機密文書を検索結果で見てしまうといった事故を防げます。この権限連携の設定は初期セットアップ時に必ず確認してください。
担当者は情報システム部門の担当者が行い、所要時間は半日から1日程度です。
環境が整ったら、実際に横断検索を使う運用フェーズに入ります。Gleanの検索窓に、探したい情報を自然な言葉で入力します。たとえば「A社向け提案書で価格表が含まれているもの」「昨年のサーバ障害の対応手順」「B社との契約で解約条件に関する条項」といった具合です。キーワードの完全一致ではなく、文脈を理解した検索結果が返ってくるため、正確なファイル名やフォルダの場所を知らなくても目的の文書にたどり着けます。
運用を定着させるために、週次で検索ログを確認し、検索されたが見つからなかった情報がないかをチェックします。見つからなかった情報が特定の部門の文書に集中している場合は、その部門のBox集約が不十分な可能性があるため、ステップ1に戻って対象を追加します。
このサイクルを月1回程度回すことで、横断検索の網羅性が徐々に向上し、情報が見つからないという問題が着実に減っていきます。利用者全員が日常的に使うものなので、初期の社内展開時にはSlackやメールで使い方の簡単なガイドを共有し、検索のコツ(具体的な案件名や日付を含めると精度が上がるなど)を伝えてください。
Boxを集約先に選ぶ最大の理由は、部門ごとのアクセス権限を細かく制御しながら、外部ツールとの連携が豊富に用意されている点です。Gleanとの連携はもちろん、将来的にほかのツールを追加する場合にもAPIが整備されているため拡張しやすいです。弱点としては、ファイルサーバからの移行時に既存のフォルダ構造やファイル名の整理が必要になるケースがあること、そしてストレージ容量に応じたコストが発生することです。ただし、横断検索の基盤としてはこの投資に見合う価値があります。
Gleanの最大の強みは、接続先のアクセス権限をそのまま検索結果に反映する仕組みです。これにより、情報セキュリティを維持したまま横断検索を実現できます。自然言語での検索精度も高く、キーワードが正確に分からなくても関連文書を見つけられるため、ITリテラシーの高くない社員でも使いこなせます。一方で、Gleanは導入コストがやや高めであること、日本語の検索精度は英語と比べると若干劣る場合があることは認識しておく必要があります。また、Glean側でインデックスを保持するため、機密性の極めて高い文書については社内のセキュリティポリシーとの整合性を事前に確認してください。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| Box | 文書の集約先クラウドストレージ | 月額課金 | 1〜2週間(初回の文書移行含む) | 各部門のアクセス権限設計を先に行い、フォルダ構造を決めてから移行を開始する。Box Driveを使えばファイルサーバからの移行がスムーズになる。 |
| Glean | AI横断検索エンジン | 要問い合わせ | 半日〜1日(Boxコネクタ設定とインデックス作成) | Boxコネクタの権限連携設定を初期セットアップ時に必ず確認する。日本語検索精度は運用しながらフィードバックで改善していく。 |
部門ごとに文書が散在している問題は、すべてを一つのシステムに統合しなくても解決できます。各部門の保管場所をBoxに集約し、その上にGleanのAI検索レイヤーを被せることで、一つの検索窓からすべての文書にアクセスできる環境が手に入ります。
最初の一歩として、まず各部門の文書保管場所を一覧にする棚卸しから始めてください。どこに何があるかを把握するだけでも、横断検索環境の設計が具体的に進みます。棚卸しは1〜2日あれば完了でき、この作業自体が現状の問題の深刻さを可視化してくれます。
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