広報・PR担当者が個人のExcelやメールボックスでメディアリストを管理している企業は少なくありません。記者の異動や担当変更の情報が共有されず、広報担当者が退職・異動すると、長年かけて築いた記者との関係性がそのまま消えてしまいます。新任担当者はゼロから関係構築をやり直すことになり、プレスリリースの掲載率が急落するケースも珍しくありません。
この記事は、従業員50〜500名規模の企業で広報業務を担当している方、あるいは広報チームを管理するマネージャーを想定しています。読み終えると、メディアリストの一元管理、記者とのやり取り履歴の自動蓄積、名刺情報の組織共有を実現する具体的なワークフローが手に入ります。大規模エンタープライズ向けのPRプラットフォーム全社導入計画や、個別ツールの網羅的なレビューは扱いません。
なお、本記事で紹介するツールの組み合わせは代表的な一例です。同じ役割を果たす別の製品でも、同様のワークフローを構築できます。
読み終えた時点で、メディアリストの更新ルール、記者との接触履歴の記録フロー、担当引き継ぎ時のチェックリストの3点をすぐに運用開始できる状態になります。
Workflow at a glance: メディアリストの属人化を解消し記者との関係資産を組織に残す方法
広報担当者が2人いれば、メディアリストも2つ存在します。片方はExcelで業界紙の記者を管理し、もう片方はGoogleスプレッドシートでテレビ局のディレクターを管理しているという状態です。名刺交換した情報は個人の名刺入れやスマートフォンのアプリに入ったまま、リストに転記されないことも日常的に起こります。
記者とのコミュニケーションは大半がメールで行われます。しかし、そのメールは担当者個人の受信トレイに残るだけで、チームの誰もアクセスできません。どの記者にいつプレスリリースを送ったか、どんな反応があったか、取材につながったかといった情報は、担当者の記憶とメールボックスの中だけに存在します。
担当者が異動や退職をする際、引き継ぎ資料としてExcelのリストが渡されることはあっても、記者ごとの温度感や過去のやり取りの文脈までは伝わりません。結果として、新任担当者が同じ記者に初めましてのメールを送ってしまい、せっかくの関係が白紙に戻ります。これは広報部門にとって、数年分の投資がゼロになるのと同じです。
メディアリストを単なる連絡先の一覧として扱っている限り、属人化の問題は解決しません。必要なのは、記者の連絡先に加えて、いつ・誰が・どんな内容でやり取りしたかという履歴が自動的に紐づく仕組みです。
記者と名刺交換をした瞬間が、メディアリストへの登録の起点です。名刺管理ツールで取り込んだ情報をCRMに自動連携すれば、手入力の手間がなくなり、登録漏れも防げます。名刺管理ツールは入口、CRMは蓄積先という役割分担が重要です。
記者へのメール送信やその返信をCRMに手動で記録する運用は、最初の1週間しか続きません。メールの送受信履歴がCRMに自動で紐づく仕組みにすることで、担当者が意識しなくても関係履歴が蓄積されていきます。
メールの履歴だけでは、記者の関心領域や取材スタイルといった定性的な情報は残りません。こうした文脈情報は、ナレッジマネジメントツールに記者ごとのページとして記録し、CRMの連絡先とリンクさせます。引き継ぎ時に最も価値があるのは、この文脈情報です。
記者と名刺交換をしたら、Sansanのスマートフォンアプリで名刺を撮影します。Sansanはスキャンした名刺情報をデータ化し、社名・部署・役職・メールアドレスなどを正確にテキスト化します。
Sansanには外部連携機能があり、取り込んだ名刺情報をHubSpotへ自動で連携できます。連携設定は初回に一度行えば、以降は名刺を取り込むたびにHubSpotのコンタクトとして自動登録されます。登録時にHubSpot側でメディア関係者であることを示すタグを自動付与するルールを設定しておくと、社内の営業用コンタクトと混在しません。
担当者がやるべきことは名刺を撮影するだけです。この1アクションで、組織のメディアリストに記者情報が追加されます。
運用頻度は、名刺交換が発生するたびに即時実行です。展示会やイベント後にまとめて取り込む場合でも、当日中に完了させるルールにしてください。翌日以降に回すと、名刺がデスクに埋もれて登録漏れが発生します。
HubSpotには、GmailやMicrosoft 365のメールアカウントと連携し、送受信したメールをコンタクトのタイムラインに自動記録する機能があります。広報担当者のメールアカウントをHubSpotに接続すると、記者とやり取りしたメールが該当するコンタクトの活動履歴に自動で紐づきます。
これにより、ある記者に対して過去にどんなプレスリリースを送ったか、返信があったか、取材依頼につながったかが、HubSpotのコンタクト画面を開くだけで時系列で確認できます。担当者が手動でメモを残す必要はありません。
さらに、HubSpotのリスト機能を使って、過去3か月以内にやり取りがあった記者、6か月以上接触がない記者といったセグメントを作成します。接触が途切れている記者には定期的にフォローアップのメールを送る運用にすれば、関係性の維持も仕組み化できます。
この自動蓄積は常時稼働です。広報担当者は普段どおりメールを送受信するだけで、履歴がCRMに溜まっていきます。月に1回、チームリーダーがセグメントごとの接触状況をレビューし、フォローが必要な記者をピックアップする運用を加えてください。
メールの履歴だけでは伝わらない情報があります。たとえば、ある記者はDX領域に強い関心を持っている、電話よりメールを好む、締め切りは毎週水曜日、といった定性的な情報です。こうした文脈情報は、Notionにメディアナレッジベースとして記録します。
Notionにメディア関係者データベースを作成し、記者ごとに1ページを用意します。ページには、関心領域、過去に掲載された記事のテーマ、取材時の注意点、担当者が感じた温度感などを自由記述で残します。HubSpotのコンタクトURLをNotionのページにリンクとして貼っておけば、定量的な接触履歴はHubSpot、定性的な文脈情報はNotionという使い分けが明確になります。
記入タイミングは、記者との接触があった直後です。取材対応の後、プレスリリース送付後の反応確認後など、記憶が新鮮なうちに5分程度で書き留めます。完璧な文章である必要はなく、箇条書きで十分です。
担当者の異動・退職時には、Notionのメディアナレッジベースがそのまま引き継ぎ資料になります。新任担当者はHubSpotで接触履歴を確認し、Notionで記者の人となりや関心領域を把握したうえで、最初のコンタクトを取ることができます。
Sansanは日本国内で最も普及している法人向け名刺管理サービスであり、日本語の名刺に対するデータ化精度が高いです。記者の名刺は肩書きや部署名が独特な場合がありますが、Sansanのオペレーターによる補正が入るため、OCRだけのサービスより正確です。HubSpotとの連携はSansan側の公式機能として提供されており、API連携の設定も管理画面から行えます。ただし、Sansanは名刺管理に特化しているため、やり取りの履歴管理や関係性の可視化はCRM側に任せる必要があります。コスト面では、法人向けプランは企業規模に応じた月額課金となるため、少人数の広報チームだけで導入する場合は1人あたりのコストが割高に感じることがあります。すでに全社でSansanを導入済みの企業であれば、追加コストなしで広報業務にも活用できます。
HubSpotの最大の強みは、コンタクト管理とメール履歴の自動記録が無料プランで利用できる点です。広報チームが3〜5名程度であれば、無料枠の範囲で十分に運用できます。メールの自動記録機能により、担当者が意識的に記録する手間がゼロになるのは、運用定着の観点で決定的に重要です。手動記録の運用は必ず形骸化します。一方で、HubSpotは本来マーケティング・営業向けのCRMであるため、メディアリレーション専用の機能は持っていません。記者の担当領域や掲載実績といったPR特有の情報を管理するには、カスタムプロパティを自分で設計する必要があります。また、メール連携はGmailまたはMicrosoft 365が前提であり、独自のメールサーバーを使っている場合は連携できない可能性があります。
Notionは、データベース機能とフリーテキストのページを組み合わせられるため、記者ごとの定性情報を柔軟に記録できます。テンプレートを用意しておけば、記入項目の抜け漏れも防げます。無料プランでもチームでの共同編集が可能であり、導入のハードルが低いです。弱みとしては、Notionへの記入は手動作業であるため、担当者が書かなければ情報は蓄積されません。ステップ2のメール履歴自動記録とは異なり、運用ルールの徹底が必要です。対策として、週次の広報ミーティングでNotionの更新状況を確認する時間を5分設けることを推奨します。また、NotionとHubSpotの間にネイティブな連携機能はないため、両者の紐づけはURLリンクの貼り付けという手動の方法になります。完全な自動連携を求める場合はZapierなどの中間ツールが必要になりますが、広報チームの規模であれば手動リンクで十分に運用できます。
| Tool | Role | Pricing | Implementation time | Notes |
|---|---|---|---|---|
| Sansan | 名刺情報のデータ化とCRMへの自動連携 | 月額課金 | 1〜2日(アカウント発行とHubSpot連携設定) | 全社導入済みの場合は追加設定のみ。広報チーム単独で新規導入する場合は、管理者権限とHubSpot連携の有効化が必要。 |
| HubSpot | メディア連絡先の一元管理とメール履歴の自動記録 | 無料枠あり | 半日(アカウント作成、メール接続、カスタムプロパティ設定) | 無料プランのCRM機能で運用開始可能。メール連携はGmailまたはMicrosoft 365が前提。メディア関係者用のカスタムプロパティとタグを初期設定で作成する。 |
| Notion | 記者ごとの定性情報と引き継ぎノートの蓄積・共有 | 無料枠あり | 1〜2時間(データベース作成とテンプレート設計) | メディア関係者データベースのテンプレートを先に作成し、記入項目を統一する。HubSpotのコンタクトURLを手動でリンクする運用。 |
メディアリストの属人化は、ツールの問題ではなく仕組みの問題です。名刺を取り込んだ瞬間にCRMへ自動登録し、メールのやり取りが自動で履歴に残り、記者ごとの文脈情報をチームで共有できる状態を作れば、担当者が変わっても関係性は途切れません。
最初の一歩として、今週中にHubSpotの無料アカウントを作成し、広報チーム全員のメールアカウントを接続してください。それだけで、来週からメール履歴の自動蓄積が始まります。Sansanとの連携やNotionのナレッジベース構築は、メール連携が安定してから順次進めれば問題ありません。
Mentioned apps: Sales Hub, Sansan, Notion
Related categories: ナレッジマネジメントツール, 名刺管理ソフト, 営業支援ツール(SFA)
Related stack guides: 顧客の最終用途情報と該非判定を一元管理し安全保障貿易管理の審査漏れを防ぐ方法, 業界標準の改定内容を自社システムへ漏れなく反映し監査不適合を防ぐ方法, パートナーとのトラブル発生時に証跡を即座に集約し原因究明と再発防止を加速する方法, 育児・介護休業の案内から申請・社会保険手続きまでを仕組み化し人事担当者の個別対応と手続きミスをなくす方法, 危機発生時にブランド方針と広報対応のズレをなくし初動遅れと二次炎上を防ぐ方法
サービスカテゴリ
AI・エージェント
ソフトウェア(Saas)