Excelで給与計算を行う方法|テンプレート・数式や注意点も紹介
Excelは、多くの企業ですでに導入されているツールであり、給与計算業務にも十分活用できます。この記事では、Excelを使った給与計算の基本的な手順や、実際に使えるテンプレートを紹介します。また、Excelで給与計算を行うメリット・デメリットも解説するので、ぜひ参考にしてください。
Excelで給与計算を行う方法

まずは、給与計算に必要な項目の整理から、計算式の設定、給与明細の作成まで、実際の業務フローに沿って詳しく解説します。
必要な項目を整理する
給与計算を始める前に、まず必要な項目を明確にしておくことが重要です。基本的な項目としては、以下が挙げられます。
- 従業員の氏名
- 社員番号
- 所属部署
- 勤務日数
- 労働時間(通常労働時間・残業時間)
- 基本給
- 各種手当(役職手当・家族手当・通勤手当など)
- 控除(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・所得税・住民税)
Excelに配置する際は、横方向に項目名を並べ、縦方向に従業員データを入力する形式が一般的です。項目の配置順序は、支給項目を左側に、控除項目を中央に、最終的な差引支給額を右端に配置すると見やすくなります。
支給額と控除額の計算式を設定する
支給項目と控除項目の計算を自動化することで、手作業によるミスを大幅に減らせます。残業代の計算では、「残業時間×時給×1.25」という基本的な計算式を使用します。時給は基本給を所定労働時間で割って算出し、深夜労働や休日労働がある場合は、それぞれ異なる割増率を適用する必要があります。
控除項目は、健康保険料と厚生年金保険料は標準報酬月額に基づいて計算されます。雇用保険料は総支給額に保険料率を乗じて算出しますが、年度によって料率が変更されるため、セル参照で管理すると更新が簡単になります。
所得税の計算は、扶養控除等申告書の内容と給与所得の源泉徴収税額表を参照して行います。複雑な計算になりがちですが、IF関数やVLOOKUP関数を組み合わせることで自動化できます。ROUND関数を使って端数処理も正確に行い、法令に準拠した計算を実現しましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本給 | 固定月給として入力 パートタイムなら「時給×労働時間」でも可 |
| 残業代 | 時給ベースで自動計算 例)残業時間×1.25×(基本給÷労働時間) |
| 総支給額 | 基本給+残業代+交通費など 例)=SUM(基本給セル, 残業代セル, 交通費セル) |
| 社会保険料 | 固定でも可 もしくは「=総支給額×15%」のように概算設定も可能 |
| 所得税 | 所得税表に基づいて関数(例:IF関数)で分岐処理して設定 簡易なら定額や割合で対応可能 |
差引支給額を自動算出する
給与計算の最終ステップとして、総支給額から控除額を差し引いた差引支給額を算出します。Excelの関数を使って「総支給額 − 控除額 = 差引支給額」を設定することで、データ入力と同時に結果が表示されるようになります。
勤怠情報との連携を工夫する
給与計算の正確性を高めるためには、勤怠管理との連携が重要になります。別シートに日別の出勤・退勤時刻、休憩時間、残業時間などの勤怠データを管理し、VLOOKUP関数やINDEX/MATCH関数を使って給与計算表に自動転記する仕組みを作るとよいでしょう。
Excelでの給与計算に便利なテンプレート
Microsoftは、Excelでの給与計算に便利なテンプレートを提供しています。従業員個人の年間給与を月ごとに管理できるよう設計されており、複雑な計算式や書式設定があらかじめ組み込まれています。
従業員の基本給や各種手当、勤務時間などを入力すると、税金や社会保険料の計算から差引支給額の算出まで、すべて自動で処理されます。また、年間の給与推移をグラフで確認できる機能や、年末調整に必要な集計データの自動生成機能も備わっています。
Excelで給与計算を行うメリット
Excelを使った給与計算には、特に中小企業や給与計算を始めたばかりの企業にとって、コスト面や運用面でさまざまなメリットがあります。ここでは、Excelで給与計算を行う具体的なメリットを解説します。
導入コストがほぼゼロで始められる
多くの企業では、すでにExcelが導入されているため、追加のソフトウェア購入費用は一切かかりません。サーバーの構築や保守費用、システムのアップデート費用なども必要なく、人件費以外のコストを最小限に抑えられます。
また、給与計算業務の規模が拡大しても、Excelのライセンス追加は比較的安価で済むため、段階的な成長に対応しやすいです。
Googleスプレッドシートを使用していれば、複数の担当者が同時にアクセスして作業することも可能で、テレワーク環境でも支障なく給与計算業務を継続できます。
自社の業務フローに合わせて柔軟にカスタマイズできる
Excelは、企業固有の給与体系や業務フローに合わせて柔軟にカスタマイズできます。業界特有の手当制度や複雑な勤務体系があっても、計算式や条件分岐を調整することで対応可能です。例えば、シフト制の職場での夜勤手当や、営業職の歩合給、建設業の現場手当など、さまざまな給与形態に対応した計算表を作成できます。
関数やマクロ機能を活用すれば、より高度な自動化も実現できます。VBAを使ったマクロプログラムにより、大量のデータ処理や複雑な条件判定を自動実行させることも可能です。また、他のシステムとの連携についても、CSVファイルの出入力機能を使って、勤怠管理システムや会計システムとのデータ交換ができます。
企業の成長に合わせて機能を段階的に追加・変更でき、事業環境の変化にも迅速に対応できる柔軟性は、Excelならではの大きなメリットです。レイアウトや項目の配置も自由に変更できるため、使いやすさを重視した独自の操作画面を構築することも可能です。
データの可視化・管理がしやすく、他業務にも応用できる
Excelで作成した給与計算データは、そのままグラフ化や分析に活用できるため、経営判断に役立つ情報を効率的に得られます。従業員ごとの給与推移や、部署別の人件費比較、残業時間の傾向分析など、さまざまな角度からデータを可視化できます。ピボットテーブルを使えば、大量のデータから必要な情報を瞬時に集計・分析することも可能です。
フィルタや並び替え機能により、特定の条件に合致する従業員データを素早く抽出でき、昇給対象者の選定や手当支給状況の確認も簡単に行えます。また、給与計算で使用したフォーマットを応用して、人件費シミュレーションや賞与計算、年末調整準備などの関連業務にも活用できます。
会計ソフトへのデータ転記も、Excelで作成した仕訳データをそのまま取り込める場合が多く、経理業務の効率化にもつながります。データの保管・検索機能も優秀で、過去の給与データを長期間にわたって管理し、必要に応じて迅速に参照できます。
Excelで給与計算を行うデメリット・注意点
Excelは便利なツールである一方で、給与計算という重要かつ正確性が求められる業務においては、リスクや制限があります。これらの課題を理解した上で使用することが、トラブルの回避につながります。以下では、主なデメリットと注意点を詳しく解説します。
人的ミスが発生しやすく、業務が属人化しやすい
Excelでの給与計算は手作業の部分が多く、入力ミスや計算式の設定ミスが発生しやすいという問題があります。特に、従業員数が多い場合や複雑な給与体系の場合、数値の転記ミス、関数の参照先間違い、コピー&ペースト時の範囲指定ミスなどが起こりがちです。
1つのセルの計算式に誤りがあると、連鎖的に他の計算結果にも影響し、最終的な給与額に大きな誤差が生じる可能性があります。
また、Excelの給与計算表が複雑になればなるほど、作成者以外が内容を理解することが困難になります。VBAマクロを多用した場合、プログラミング知識のない担当者では修正や改良ができず、業務が特定の人に依存してしまいます。担当者の急な退職や異動があった際に、給与計算業務が停止してしまうリスクもあります。
加えて、手作業による確認作業が増えるため、給与計算にかかる時間が長くなり、月末の業務集中による残業増加や、確認不足による誤支給といった問題も発生しやすくなります。属人化を防ぐためには、詳細な手順書の作成や定期的な業務の標準化が必要ですが、これらの作業も相当な時間と労力を要します。
法改正や保険料率の変更に対応しにくい
給与計算では、毎年のように変更される税率や社会保険料率に正確に対応する必要があります。しかし、Excelでは更新作業をすべて手動で行わなければなりません。所得税の税率改正や、厚生年金保険料率の変更、雇用保険料率の改定、健康保険料率の都道府県別変更など、様々な法改正情報を常にチェックし、計算式に反映させる必要があります。
特に、年度途中での法改正や遡及適用がある場合は、過去に遡って計算をやり直す必要があり、非常に煩雑な作業となります。また、法改正の反映漏れや計算式の更新ミスがあると、法令違反となる可能性があり、後日の追加支払いや行政指導のリスクもあります。
担当者が責任を持って対応しなければならず、専門性の高い知識と継続的な学習が求められます。法改正対応の負担は年々増加する傾向にあり、中小企業にとっては大きな負担となっています。
データの一元管理・連携が難しく、非効率になりがち
Excelは単体での使用が前提となっています。勤怠管理や年末調整、マイナンバー管理、給与明細配布などを別々のシステムや方法で管理している場合は、データの二重入力や転記作業が必要となり、時間と手間がかかるだけでなく、転記ミスのリスクも高まります。
例えば、タイムカードシステムで管理している勤怠データをExcelの給与計算表に手動で転記する場合は、労働時間の集計ミスや転記漏れが発生しやすくなります。
年末調整では、扶養控除等申告書の内容を手動で給与計算に反映させる必要があり、大量の書類処理が必要になります。マイナンバーの管理は、Excelでは適切なセキュリティ対策を講じることが困難で、別途専用のシステムや厳重な管理体制が必要です。
給与明細の配布も、Excelで作成した明細書を印刷・封入・配布する手作業が必要で、ペーパーレス化や効率化が進まない原因となります。これらの非効率性は、従業員数の増加とともに顕著になり、給与計算業務全体の生産性低下につながります。
Excelに限界を感じたら給与計算ソフトの導入を検討しよう
Excelでの給与計算は手軽さや自由度の面で優れていますが、事業の成長や法改正への対応、ミスのリスクを考えると限界を感じる場面が増えてきます。そのような課題を根本的に解決するためには、給与計算ソフトの導入が効果的な選択肢となります。ここでは、給与計算ソフトの具体的な導入効果を解説します。
最新の法令・税率に自動対応できる
給与計算ソフトでは、ベンダーが最新の法改正情報を継続的に収集・分析し、システムアップデートを通じて自動的に反映してくれるため、担当者が個別に法改正を調査・対応する必要がありません。
社会保険料率の改定や、所得税率の変更、住民税の特別徴収額の変更なども、アップデート時に自動で反映されます。特に、年度途中での法改正や遡及適用が必要な場合でも、給与計算ソフトが自動的に過去データを再計算し、正確な金額を算出してくれます。
これにより、法令違反や計算ミスのリスクが大幅に軽減され、給与計算の正確性と信頼性が向上します。また、ベンダーから法改正の内容や影響に関する情報提供やサポートも受けられ、専門知識がない担当者でも安心して業務を継続できます。
勤怠情報と自動連携し、転記ミスを防げる
多くの給与計算ソフトは、勤怠管理システムとの連携機能を備えており、打刻データや勤怠データを自動的に給与計算に反映できます。ICカードやスマートフォンアプリを使った打刻データ、Web上で入力された勤怠データなどを、リアルタイムまたは定期的に給与計算システムに取り込むことで、手作業による転記作業を完全に排除できます。
連携により、労働時間の集計や残業時間の計算、深夜労働や休日労働の判定なども自動化され、複雑な勤務パターンにも正確に対応できます。有給休暇の取得状況や特別休暇の管理、遅刻・早退の処理なども自動で給与計算に反映され、担当者の負担が大幅に軽減されます。
また、勤怠データに不備や矛盾がある場合は、システムが自動でアラートを出すため、問題の早期発見と修正が可能です。
これにより、月末の給与計算時期になってから勤怠データの不備に気づくといった事態を防げ、給与支払いの遅延リスクも回避できます。データの整合性も自動でチェックされるため、転記ミスや計算ミスによる給与の誤支給を防止できます。
給与明細を自動発行・配布できる
給与計算ソフトでは、給与計算の完了と同時に給与明細を自動生成し、さまざまな方法で従業員に配布できます。従来の紙での印刷・配布に加えて、PDFファイルとしてメール配信したり、Web上の専用ページで閲覧できるようにしたりと、デジタル化された配布方法を選択できます。
従業員は専用のアカウントでログインし、Web上で過去の給与明細も含めていつでも確認できるため、再発行の手間もかかりません。メール配信では、パスワード付きPDFファイルとして送信されるため、セキュリティも確保されます。
紙の印刷コストや封入・配布作業の手間が削減され、環境負荷の軽減にもつながります。
年末調整やマイナンバー管理にも対応できる
給与計算ソフトの多くは、年末調整業務を自動化する機能を備えており、煩雑な計算処理や書類作成を効率化できます。従業員から提出された扶養控除等申告書や保険料控除申告書のデータを取り込み、自動的に所得税の年税額を計算し、月々の源泉徴収税額との差額を算出します。
年末調整に必要な法定調書(源泉徴収票、給与支払報告書、法定調書合計表など)も自動生成され、税務署や市町村への提出データとして出力できます。電子申告にも対応している場合は、e-Taxやe-LTAXを通じた電子提出も可能で、書類の印刷・郵送作業が不要になります。
加えて、専用の暗号化機能やアクセス制御機能により、法令に準拠した適切なマイナンバー管理を実現できます。収集・保管・利用・廃棄の各段階で必要なセキュリティ対策が講じられており、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。
属人化を防ぎ、誰でも対応できる体制を作れる
給与計算ソフトは、直感的な操作画面と充実したサポート体制により、特定の担当者に依存しない業務体制を構築できます。操作方法がマニュアル化されており、新しい担当者でも短期間で業務を習得できるよう設計されています。オンラインヘルプやFAQ、動画マニュアルなども充実しており、疑問点があっても迅速に解決できます。
また、複数の担当者が同じソフトを使用することで、業務の標準化が進み、引き継ぎや代替要員の確保も容易になります。システムの操作ログや処理履歴も記録されるため、作業の透明性が確保され、内部統制の観点からも優れています。
Excelと給与計算ソフトの比較
Excelと給与計算ソフトのどちらを選択するかは、企業の規模や予算、業務の複雑さ、将来の成長計画などを総合的に考慮して判断する必要があります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最も適した選択をすることが重要です。
| 比較項目 | Excel | 給与計算ソフト |
|---|---|---|
| 導入コスト | 低コスト(無料〜) | 月額数千円〜(有料) |
| カスタマイズ性 | 高い(自由に設計可能) | 限定的だがテンプレートが整備されている |
| 法令・税率への対応 | 手動で更新が必要 | 自動で更新・法改正に対応 |
| 勤怠連携・自動計算 | 手動で連携・関数を自作 | 勤怠・労務ソフトと自動連携可能 |
| 計算ミスのリスク | 高い | 低い |
| 業務の属人化リスク | 高い | 低い |
| 明細出力・配布 | 手動で印刷・PDF化・配布 | 自動でWeb配信やPDF出力が可能 |
| 年末調整・マイナンバー対応 | 対応が困難 | 対応可能 |
| セキュリティ | ファイル管理に依存 | 暗号化され安全性が高い |
【Excelが向いているケース】
- 初期投資を抑えたい
- IT予算に制約がある
- 従業員数が比較的少ない(20名以下)
- 全従業員が同じ給与体系
- アルバイト・パートの時給計算が中心
- 給与計算業務に詳しい担当者がいる
【給与計算ソフトが向いているケース】
- 従業員数が30名を超える
- 複数の雇用形態(正社員、契約社員、アルバイト、派遣社員など)が混在している
- 業績連動賞与・歩合給・各種手当制度が複雑に設定されている
- 勤怠管理システムやマイナンバー管理システムとの連携が必要
- 年末調整業務の効率化を図りたい
- 給与明細の電子配布を実現したい
- 給与計算業務の担当者が限られており、属人化のリスクを回避したい
- 内部統制の強化が求められる
- 将来的な事業拡大を計画している
自社に合った給与計算ソフトの選び方は?
給与計算ソフトを選定する際は、自社の業務要件を明確にすることが重要です。従業員数や給与体系の複雑さ、必要な機能、予算、導入スケジュールなどを整理し、優先順位をつけましょう。
その上で、候補となる給与計算ソフトの機能比較を行います。基本的な給与計算機能はもちろん、法令改正への対応頻度や、サポート体制の充実度、操作性のよさ、他システムとの連携可能性などを評価しましょう。
また、クラウド型とオンプレミス型の違いや、初期費用とランニングコストの比較、契約形態なども重要な判断要素となります。
ただし、一度にすべての項目を整理・比較することは難しいです。給与計算ソフトを展開しているベンダーも数多くあります。そのため、以下の診断をご活用ください。簡単な質問に答えていくだけで、自社に最適な給与計算ソフトが見つかります。
まとめ
Excelでの給与計算は、コストを抑えて給与計算業務を開始したい企業にとってメリットが大きい方法です。初期費用がほとんどかからず、自社の業務フローに合わせて柔軟にカスタマイズできるため、特に中小企業や小規模事業者に魅力的です。
しかし、従業員数の増加や業務の複雑化に伴い、手作業によるミスのリスクや、法改正対応の負担、データ管理の非効率性といった課題が顕在化してきます。これらの課題は、事業の成長とともに深刻化する傾向があり、最終的には給与計算業務全体の生産性低下や法令違反のリスクにつながる可能性があります。
重要なのは、現在の状況だけでなく、将来の事業計画や成長戦略も考慮して判断することです。自社の規模や業務の複雑さ、予算、人的リソースなどを総合的に評価し、最適な給与計算方法を選択することで、効率的で正確な給与計算業務を実現できるでしょう。
自社に最適な給与計算ソフトを見つけるには?
給与計算ソフトは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
自社に最適な給与計算ソフトを見つける際には「FitGap」をご利用ください。FitGapは、自社にぴったりの製品を選ぶための無料診断サービスです。簡単な質問に答えていくだけで、自社に必要なシステム要件が整理でき、各製品の料金や強み、注意点、市場シェアなどを知ることができます。
自社に最適な給与計算ソフトを選ぶために、ぜひFitGapをご利用ください。
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