人事労務の業務内容や課題を解説！システム活用によって効率化しよう

人事労務は、採用から退職まで社員のライフサイクル全体を支える企業運営の重要な分野です。労働基準法や社会保険制度など複雑な法令への対応が求められる一方で、働き方改革やテレワークなど新しい働き方への対応も必要になっています。

本記事では、人事労務の基本的な定義や主要業務を解説します。人事労務の全体像を把握し、業務効率化につなげるために、ぜひ参考にしてください。

人事労務とは？

人事労務は、企業の人材に関する幅広い業務を担う分野で、社員が安心して働ける環境を整備し、企業の持続的成長を支える重要な機能です。採用から退職まで、社員のキャリア全体にわたって法的な手続きや制度運用を通じてサポートします。

人事と労務の違い

人事と労務は密接に連携しながらも、それぞれ異なる役割を担っています。

人事は主に採用活動や人材育成、人事評価、組織開発など、「人材の活用と成長」に焦点を当てた戦略的な業務を行います。一方、労務は労働条件の整備や勤怠管理、給与計算、社会保険手続きなど、「労働環境の整備と法令遵守」を中心とした実務的な業務を担当しています。

人事と労務の境界は必ずしも明確ではなく、多くの企業では人事労務として一体的に運用されています。特に中小企業では、同一の担当者が人事と労務の両方を兼務するケースも少なくありません。

企業における人事労務の役割

人事労務は企業運営において、以下の3つの重要な役割を果たしています。

人事労務の主な業務内容

人事労務の業務は、採用から退職までの社員のライフサイクル全般を支える重要な役割を担っています。法令遵守を基盤としながら、社員が安心して働ける環境づくりと企業の持続的成長を両立させる必要があります。ここでは、担当者が日常的に関わる主な業務を整理して解説します。

採用・入社手続き

求人票の作成から面接の実施、内定者との調整まで、新しい人材を迎え入れるための一連の活動を担当します。入社が決定した際には、雇用契約書の作成や労働条件通知書の交付、社会保険の資格取得手続き、必要書類の収集など、法令に基づいた適切な手続きを行います。

これらの手続きは労働基準法や社会保険法に定められた期限内に完了させる必要があり、遅れると行政からの指導対象となる可能性があります。また、入社時のオリエンテーションや社内制度の説明も重要な業務の一部です。

勤怠管理

社員の出退勤時間を正確に記録し、労働時間が法令の基準内に収まっているかを継続的に確認します。特に残業時間や休日出勤の管理は、労働基準法の36協定に基づいて厳格に行う必要があります。

勤怠データは給与計算の基礎となるため、記録の正確性が極めて重要です。近年はタイムカードに代わってICカードやクラウドシステムを活用する企業が増えており、より精密な労働時間管理が可能になっています。

給与計算・社会保険の手続き

毎月の基本給に加えて、残業代や各種手当、賞与の計算を行います。同時に所得税や住民税、社会保険料、雇用保険料などの控除額を正確に算出し、手取り額を確定させます。年末調整や源泉徴収票の作成も重要な業務です。給与計算は社員の生活に直結するため、1つのミスも許されない精密さが求められます。

就業規則・社内制度の整備

労働基準法をはじめとする労働関連法令の改正に合わせて、就業規則や社内制度を適切に見直します。働き方改革関連法や育児介護休業法、パワハラ防止法など、近年は法改正のペースが早く、継続的な対応が必要です。

就業規則は社員との労働契約の基盤となるため、法令に準拠しているだけでなく、実際の働き方に合った実用的な内容にすることが重要です。制度変更時は社員への適切な説明と周知も欠かせません。

労務トラブルの予防・対応

未払い残業代請求や各種ハラスメント、不当解雇などの労使トラブルが発生した際の対応を行います。トラブルが深刻化する前に、相談窓口の設置や定期的な職場環境調査により、予防に努めることが重要です。

問題が発生した場合は、事実関係の調査や関係者へのヒアリング、解決策の検討を迅速に行います。必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの専門家と連携し、法的リスクを最小限に抑える対応を取ります。

人材育成・評価制度の運用

新入社員研修や管理職研修、スキルアップ研修など、社員の成長を支援する教育プログラムの企画・運営を行います。また、人事評価制度の運用サポートや昇進・昇格手続きも担当します。

これらの活動は単なる制度運用にとどまらず、社員のモチベーション向上や組織の活性化にも大きく貢献します。労務管理の視点から人事戦略を支える重要な役割といえるでしょう。

人事労務でよくある課題とリスク

人事労務は社員の働き方や法令遵守に直結するため、対応を誤ると大きなトラブルや企業リスクにつながります。近年は働き方の多様化や法改正の頻度増加により、担当者が直面する課題も複雑化しています。ここでは、担当者が直面しやすい代表的な課題とリスクを詳しく解説します。

勤怠管理の不備

労働時間の把握が不十分だと、社員からの未払い残業代請求や労働基準監督署からの是正勧告につながるリスクがあります。特に管理職の労働時間管理や、テレワーク時の勤務実態把握は課題となりやすい分野です。

長時間労働の常態化は、過労死認定や精神的疾患の労災認定といった深刻な問題に発展する可能性もあります。36協定の上限時間を超過した場合は労働基準法違反となり、企業に対する罰則や社会的信用失墜のリスクが生じます。正確な勤怠記録の維持と適切な労働時間管理が不可欠です。

給与計算・社会保険の手続きミス

給与の支給額誤りや源泉徴収額の計算ミス、社会保険料の控除漏れは、社員からの信頼失墜につながります。特に年末調整での計算誤りや、育児休業給付金の手続き遅れなどは、社員の生活に直接影響を与える深刻な問題です。

社会保険の資格取得・喪失手続きの遅れは、年金事務所やハローワークからの指導対象となり、場合によっては追徴金の支払いが必要になることもあります。手続きの期限管理と正確性の確保が重要な課題です。

法改正への対応遅れ

労働関連法は頻繁に改正されており、対応の遅れは法令違反につながるリスクがあります。働き方改革関連法による残業時間上限規制や、育児介護休業法の男性育休推進、パワハラ防止法の義務化など、近年の法改正は企業への影響が大きいものが多くなっています。

法改正への対応が遅れると、労働基準監督署からの是正勧告や、最悪の場合は刑事罰の対象となる可能性があります。法改正情報の収集と社内制度への反映を迅速に行う体制の構築が必要です。

ハラスメント問題の発生

パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなどの問題は、放置すると企業の評判を大きく損ないます。2020年にパワハラ防止法が施行されて以来、企業には相談窓口の設置や適切な対応措置が法的に義務付けられています。

ハラスメント問題への対応が不適切だと、被害者からの損害賠償請求や労働局への申し立て、最悪の場合は裁判に発展するリスクがあります。予防策の実施と発生時の迅速で適切な対応が求められます。

退職・解雇時のトラブル

退職勧奨の進め方や解雇手続きが不適切だと、不当解雇として訴えられるリスクがあります。また、離職票の発行遅れや退職時の社会保険手続きの不備は、退職者との関係悪化や行政指導の原因となります。

特に懲戒解雇の場合は、解雇理由の正当性や手続きの適法性が厳しく問われます。就業規則に明確な規定を設け、証拠の保全と適切な手続きを踏むことが重要です。

就業規則や制度の未整備

法改正に合わせた就業規則の改訂を怠っていたり、社内制度の運用ルールが曖昧だったりすると、トラブル発生時に会社を守る法的根拠を失います。就業規則は労働契約の基盤となるため、常に最新の法令に準拠した内容に保つ必要があります。

制度の未整備は社員の不満や混乱を招き、労使関係の悪化につながる可能性もあります。定期的な見直しと適切な運用が欠かせません。

人材定着やモチベーション低下のリスク

人事労務業務の不備は、社員満足度に直結する重要な要因です。給与計算のミスが頻発したり、制度運用が不公平だったりすると、社員の会社に対する信頼が失われます。

優秀な人材の離職率上昇は、企業の競争力低下や採用コストの増大につながります。人事労務の質が組織全体のパフォーマンスに大きく影響することを認識し、継続的な改善に取り組むことが重要です。

人事労務を効率化するには人事システムの導入が有効

人事労務業務は採用から勤怠・給与・社会保険手続きまで多岐にわたり、担当者の負担が大きくなりがちです。特に法改正への対応や複雑な計算処理が求められる中で、手作業による処理では限界があります。

こうした業務を効率的に進めるために有効なのが、人事労務システムの導入です。煩雑な手続きを自動化し、データを一元管理することで、作業の正確性とスピードを大幅に向上させられます。

勤怠管理を自動化できる

人事システムを導入すると、ICカードやスマートフォンでの打刻により、出退勤時間を自動で記録できます。労働時間や残業時間もシステムが集計してくれるため、手作業による計算ミスを防ぎ、担当者の負担を大きく減らせます。

さらに、36協定の上限時間が近づいた社員にアラートを出したり、有給休暇の残日数を自動で管理したりする機能もあり、労働基準法違反のリスクを回避することが可能です。テレワーク中でも正確な勤怠管理ができるため、多様な働き方を安心してサポートできます。

給与計算の正確性が高まる

人事システムは、勤怠データと連動して給与計算を自動で処理できるため、基本給や残業代の計算ミスを防げます。さらに、所得税・住民税・社会保険料などの控除額も自動計算され、手取り額を正確かつスピーディーに算出できます。

年末調整や源泉徴収票の作成といった税務関連の処理も自動化できるため、業務の効率化が大きく進みます。また、給与明細を電子配信に切り替えれば、印刷コストを削減できるうえ、配布作業の手間もなくなります。

社会保険・労働保険手続きが効率化できる

人事システムを活用すれば、入退社に伴う社会保険の資格取得・喪失手続きや、扶養家族の異動届などを電子申請で処理できます。これにより、年金事務所やハローワークへ書類を持参する必要がなくなり、担当者の外出時間や交通費を大幅に削減できます。

また、手続きの進捗を管理したり、期限をアラートで知らせたりする機能もあり、申請漏れや遅延の防止につながります。行政機関からの回答も電子的に受け取れるため、処理全体のスピードが向上し、手続き完了までの時間を短縮できます。

社員情報を一元管理できる

人事評価の結果や保有スキル、研修履歴、資格情報を一元管理することで、社員の成長プロセスや適性を可視化できます。これにより、最適な人材配置や効果的な育成計画の立案に役立ちます。

さらに、組織図を自動生成したり、部門別・役職別に分析レポートを作成したりできるため、経営陣への報告業務も効率的に進められます。人的資本経営を推進するうえで欠かせないデータ分析の基盤としても活用可能です。

法改正に柔軟に対応できる

人事システムは、ベンダーからの定期的なアップデートにより、働き方改革関連法や育児・介護休業法などの法改正に自動で対応できます。就業規則のテンプレートや計算式も更新されるため、法改正対応にかかる工数を大幅に削減可能です。

さらに、新しい制度や手続きに関するガイダンスもシステム上で提供されるため、担当者が1から調べる負担を減らせます。結果として、法令遵守の確実性が高まり、コンプライアンスリスクの低減にもつながります。

ペーパーレス化でコスト削減につながる

人事システムを活用し、勤怠表や給与明細、各種申請書を電子化することで、印刷費用や保管スペースのコストを削減できます。書類の紛失リスクをなくし、情報セキュリティの強化にもつながります。

また、テレワーク環境でも社員が必要な手続きをオンラインで完結できるため、出社の手間が不要になります。これにより、社員の利便性が向上するだけでなく、オフィス運営コストの削減にも寄与します。

自社に最適な人事システムを見つけるには？

人事システムは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。

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まとめ

人事労務は、採用から勤怠管理・給与計算・社会保険手続き・就業規則の整備まで、社員の働き方と企業運営を支える重要な役割を担っています。法令遵守の確保、社員定着率の向上、企業成長への貢献といった観点から、その重要性はますます高まっています。

一方で、近年は働き方改革や度重なる法改正への対応が求められ、業務量は増加傾向にあります。そのため、人事システムの導入は必須といっても過言ではありません。

人事労務の質は、組織全体のパフォーマンスに直結します。継続的な改善と効率化に取り組むことで、社員と企業の双方にとって価値ある人事労務運営を実現していきましょう。