電子契約の導入の流れ・手順!注意点や導入しないことのリスクも解説
電子契約の導入は、契約業務の効率化やコスト削減を目指す企業にとって欠かせない施策です。とはいえ、「自社に最適なシステムはどれか」「導入にはどんな手順や費用がかかるのか」といった疑問や不安を抱く担当者も少なくありません。
本記事では、電子契約の導入の流れや注意点を紹介します。電子契約の導入が遅れることによるリスクも解説するので、ぜひ参考にしてください。
電子契約を導入する企業が増えている背景
電子契約とは、契約書の作成から署名・締結・保管までを電子的に完結する仕組みのことです。紙契約では印刷・押印・郵送などの手間が発生しますが、電子契約ではすべてオンラインで行えるため、スピード・コスト・セキュリティ面で大きな差があります。
そのため、近年、電子契約の導入は大企業から中小企業まで幅広く進んでいます。実際に、一般財団法人日本情報経済社会推進協会が株式会社アイ・ティ・アールと共同で行った「企業IT利活用動向調査2024」では、電子契約の導入率は77.9%と発表されています。

テレワークの普及と働き方改革への対応
テレワーク・リモートワークが定着したことにより、紙の契約書に押印するために出社するという非効率な業務が課題になりました。特に、緊急事態宣言やパンデミック対応を機に、物理的なオフィスに依存しない働き方が急速に広がったことで、従来の押印文化が業務のボトルネックとして顕在化しています。
電子契約を導入すれば、社内外のどこにいても契約業務を完結でき、リモートワーク環境での生産性向上が可能になります。出張先や自宅からでも契約締結が行えるため、業務スピードの向上とともに、社員の柔軟な働き方を支援できます。また、働き方改革の流れの中で、場所にとらわれない働き方を実現する手段としても、電子契約の導入が求められています。
DX推進・業務効率化への影響
企業のDX推進の一環として、電子契約は契約業務のデジタル化として位置づけられています。DXは、単なるIT化にとどまらず、業務プロセス全体を見直し、データを活用した経営判断を可能にする取り組みです。
紙契約では時間とコストがかかる一方、電子契約は承認フローの自動化・契約状況の可視化・データ分析など、業務効率化と経営改善の両立が可能です。契約データをデジタル化することで、契約書の検索性が向上し、過去の取引履歴や契約条件の傾向分析も容易になります。
これにより、経営層は契約業務の実態を把握しやすくなり、迅速な意思決定が実現します。
企業間取引における電子契約対応の拡大
取引先や顧客側から電子契約対応を求められるケースも増えています。大手企業を中心に電子契約を標準化する動きが加速しており、サプライチェーン全体での電子化が進んでいます。
多くの企業では電子契約が標準化されており、導入しないと取引機会を逃すという状況も生まれています。特に、新規取引先の開拓や大規模プロジェクトへの参画を検討する場合、電子契約対応が参加条件となっているケースも見られます。
電子契約の導入が遅れることによるリスク
電子契約を導入せずに紙の契約書運用を続けると、企業経営にさまざまな影響が生じます。DX化やテレワークが一般化する中、電子契約を導入しないことは、時代の流れに取り残されることを意味します。ここでは、電子契約の導入を先送りにした場合の具体的なリスクを整理します。
契約業務のスピードが競合に劣る
紙契約では、印刷・押印・郵送・返送といった工程が必要なため、契約締結に数日〜数週間かかるケースもあります。特に、複数の承認者がいる場合や、取引先が遠方にある場合は、物理的な移動や郵送の時間が大きな遅延要因となります。
一方、電子契約なら最短即日で契約完了が可能です。クラウド上で契約書を共有し、関係者全員がオンラインで署名を行うため、時間と場所の制約がありません。
導入が遅れる企業は、取引先対応が後手に回り、ビジネスチャンスの損失や意思決定の遅延につながるリスクがあります。特に、競合他社が電子契約を活用してスピーディーに対応している場合、相対的に自社の競争力が低下する恐れがあります。
印紙税・郵送費などのコスト負担が継続する
紙契約を続ける限り、印紙税・郵送費・紙の保管コストなどの無駄な経費が発生します。1件あたり数百円〜数千円の印紙税が年間数百件発生すれば、大きな経費負担となります。例えば、1件あたり200円の印紙税が年間500件発生すると、年間10万円のコストが発生します。さらに、郵送費や封筒代、印刷用紙代なども積み重なります。
電子契約を導入すれば印紙税は不要となり、導入が遅れるほどコスト削減の機会を失うことになります。また、紙契約の保管には物理的なスペースも必要であり、オフィスの賃料や管理コストも見逃せません。電子契約であれば、クラウド上で契約書を管理できるため、保管スペースの削減にもつながります。
取引先からの電子契約対応要求に応えられない
多くの企業では、電子契約が標準化されつつあります。特に、上場企業や大手企業では、内部統制やコンプライアンスの観点から、電子契約を推奨または義務化する動きが広がっています。
導入が遅れると、電子契約対応を求める取引先との取引を逃す可能性があります。取引先から「電子契約でお願いします」と依頼された際に、紙契約しか対応できないと回答すれば、相手企業の業務効率を妨げることになり、信頼関係に影響を与えかねません。結果として、取引の縮小や契約解除のリスクも考えられます。
コンプライアンス・セキュリティ面での懸念が広がる
紙契約は、紛失・改ざん・持ち出しなどのリスクが常に伴います。契約書を紙で保管する場合、物理的な盗難や火災、水害などの災害リスクもあります。また、社内の複数の担当者が契約書を持ち出すことで、情報漏洩のリスクも高まります。
電子契約では、改ざん防止機能やアクセス権限管理、ログ追跡が可能ですが、導入が遅れるとガバナンスの脆弱化につながります。
電子契約システムでは、誰がいつ契約書にアクセスしたか、どのような変更が加えられたかを記録できるため、不正行為の抑止や早期発見が可能です。監査対応や内部統制の観点からも、電子化の遅れはリスク管理面での弱点になります。
契約情報の管理・検索に時間がかかる
紙の契約書は保管・検索・共有が手作業になりやすく、契約内容の確認に時間がかかるという問題があります。契約書が大量に保管されている場合、目当ての契約書を探すだけで数十分から数時間を要することもあります。また、契約書の所在が不明になり、契約内容の確認ができないというトラブルも発生しがちです。
電子契約なら、キーワード検索や自動整理で即時にアクセス可能です。契約書のタイトルや取引先名、契約日、契約金額などの条件で絞り込み検索ができるため、必要な情報をすぐに取り出せます。導入を遅らせる企業は、情報活用の遅れ=意思決定の遅れにつながるリスクを抱えることになります。
電子契約の導入の流れ・手順
電子契約を導入するには段階的な準備が必要です。いきなり全社展開を行うのではなく、計画的に進めることで、トラブルを回避しながらスムーズに導入できます。ここでは、電子契約の導入の基本的な流れを解説します。
①現状の契約業務を整理する
まずは、「作成→承認→押印→郵送→保管」といった現状の契約業務の流れを可視化します。どの部署が契約書を作成し、誰が承認し、どのように保管しているのかを明確にすることで、業務全体の流れを把握できます。
契約書の件数や処理時間、印紙税・郵送費などのコスト、紙保管に関する課題を洗い出すことで、どこに非効率があるのか、電子契約で何を改善したいのかを明確にできます。例えば、「契約締結に平均10日かかっている」「年間の印紙税が50万円発生している」といった具体的な数値を把握することで、電子契約導入の効果を定量的に示せるようになります。
②電子契約システムを比較・選定する
自社の目的と契約規模に合った電子契約システムを比較・検討します。主に、料金体系・法的対応・操作性・セキュリティ・サポート体制などを比較して検討するとよいでしょう。
料金体系は、月額固定型、従量課金型、ユーザー数に応じた課金型など、サービスによって異なります。法的対応では、電子署名法や電子帳簿保存法への準拠状況を確認することが重要です。また、操作性は、社員が直感的に使えるデザインかどうかを実際に試用して確認することをおすすめします。
③社内承認・運用ルールを整備する
電子契約システムの導入には、法務・経理・情報システムなど複数部署の承認が必要です。各部署が電子契約のメリットとリスクを理解し、導入に賛同できるよう、丁寧な説明を行うことが大切です。
そのため、電子契約の法的有効性やセキュリティなどを社内関係者が理解できるよう、社内説明資料や運用ルールを整備します。運用ルールには、誰が契約書を作成するのか、誰が承認するのか、どのような契約書を電子化するのか、紙契約との使い分けはどうするのかなど、具体的な運用方法を明記します。
④試験導入で効果を検証する
本格導入の前に、限定的な範囲で試験導入を行い、効果と課題を確認します。いきなり全社展開を行うと、予期しないトラブルが発生した際に大きな混乱を招く恐れがあります。
そのため、特定部署や特定の契約書タイプから始め、実際の運用データやユーザーの声を集めて改善を行うとよいでしょう。
例えば、営業部門の一部チームで秘密保持契約書のみを電子化し、契約締結までの時間やユーザーの使いやすさを検証します。試験導入で得られたフィードバックをもとに、運用ルールやシステム設定を調整することで、本格導入時のトラブルを減らせます。
⑤全社展開・運用定着を図る
試験導入で得た知見をもとに運用ルールをブラッシュアップし、全社展開を行います。全社展開の際には、全社員向けの説明会や研修を実施し、電子契約の使い方や注意点を周知しましょう。
運用開始後は、定期的なルール見直し・ツール活用教育・利用状況のモニタリングを実施して定着を促します。利用状況を定期的に確認し、利用率が低い部署には個別にフォローを行うことで、全社での定着を図ります。また、運用開始後に発生した問題や改善要望を収集し、運用ルールやシステム設定を継続的に改善していくことが重要です。
電子契約を導入する際の注意点
電子契約は便利で効率的な仕組みですが、導入・運用の手順を誤るとトラブルにつながる恐れがあります。事前に注意点を把握し、適切な対策を講じることで、安全かつ円滑に電子契約を運用できます。ここでは、導入時に特に注意すべきポイントを解説します。
法的有効性を正しく理解しておく
電子契約は、電子署名法に基づいて法的効力が認められていますが、すべての契約が電子契約で有効になるわけではありません。例えば、定期借地契約や定期建物賃貸借契約など、公正証書が必要な契約や、紙での保存が義務付けられている書類は対象外となります。
そのため、事前に対象となる契約書の種類が電子化可能かどうかを理解しておく必要があります。不動産取引や一部の金融取引では、法令で紙の契約書が求められる場合があるため、事前に法務部門や専門家に確認することをおすすめします。また、電子帳簿保存法の要件を満たした保存方法を採用することで、税務調査時にも問題なく対応できます。
セキュリティ・認証の仕組みを確認する
電子契約はデジタルデータを扱うため、改ざん防止・アクセス制御・データ保全が極めて重要です。導入前にセキュリティ機能を確認しておきましょう。
具体的には、電子署名の暗号化技術や多要素認証の有無、アクセスログの記録機能、データのバックアップ体制などをチェックします。また、ISO27001やSOC2などのセキュリティ認証を取得しているサービスを選ぶことで、安心して利用できます。
さらに、社内でのアクセス権限管理を徹底し、契約書にアクセスできる人員を必要最小限に制限することも重要です。
取引先が電子契約に対応しているかを確認する
自社が電子契約を導入しても、取引先が未対応の場合は紙契約が必要なケースもあります。特に、中小企業や個人事業主との取引では、相手方が電子契約に不慣れな場合もあります。
相手先との合意が取れないまま電子署名を送っても、契約が成立しないリスクがあるため、事前に取引先に電子契約の導入を伝え、操作方法をサポートする体制を整えることが大切です。また、取引先が電子契約に対応できない場合は、紙契約と電子契約を併用する運用も検討する必要があります。
バックアップ・データ保管体制を確立する
電子契約は電子データのため、万が一の障害・サーバートラブル・アカウント削除などに備え、バックアップ体制を整えることが不可欠です。クラウドサービスを利用する場合でも、定期的にデータをダウンロードして社内サーバーや外部ストレージに保管することをおすすめします。
また、契約書の保存期間は法令で定められているため、長期間にわたって安全にデータを管理できるシステムを選ぶことが重要です。
電子署名の運用権限とアカウント管理に注意する
電子署名のアカウントは、「誰が署名したか=誰が契約責任を負うか」を示す重要な要素です。ID・パスワードの共有や代理署名が発生すると、法的リスクが高まります。
例えば、営業担当者が上司のアカウントを借りて署名を行った場合、後から「誰が署名したのか」が不明確になり、契約の有効性に疑義が生じる可能性があります。
そのため、各担当者に専用のアカウントを付与し、本人以外が署名できないようにすることが原則です。また、退職者のアカウントは速やかに削除し、不正利用を防ぐことも重要です。
電子契約後の保存・検索ルールを決める
契約締結後のデータ管理も重要です。保存フォルダや命名規則が統一されていないと、契約書の所在が不明になり、監査・再確認時に混乱を招きます。
例えば、契約書のファイル名を「取引先名_契約種別_契約日」のように統一し、保存フォルダも「年度別」「取引先別」などのルールを定めておくことで、検索性が向上します。また、契約書に関連するメールや添付資料も一元管理できるよう、システムの設定を工夫することが望ましいです。
導入後の社内教育・運用フォローを怠らない
電子契約を導入しても、社員が正しく理解していなければトラブルの原因になります。操作方法だけでなく、法的な注意点やセキュリティ上の留意事項も含めて、社内教育を実施することが大切です。社内教育やマニュアル整備を行い、誰でも安全に運用できる体制を整えましょう。
また、導入後も定期的に研修を実施し、新入社員や異動者にも教育を行うことで、全社での運用レベルを維持します。さらに、問い合わせ窓口を設けて、社員からの質問や相談に迅速に対応できる体制を構築することも有効です。
自社に最適な電子契約システムを見つけるには?
電子契約システムは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
自社に最適な電子契約システムを見つける際には「FitGap」をご利用ください。FitGapは、自社にぴったりの製品を選ぶための無料診断サービスです。簡単な質問に答えていくだけで、自社に必要なシステム要件が整理でき、各製品の料金や強み、注意点、市場シェアなどを知ることができます。
自社にぴったりの電子契約システムを選ぶために、ぜひFitGapをご利用ください。
まとめ
電子契約の導入は、コスト削減・業務効率化・リモートワーク対応・DX推進など、企業にもたらすメリットが非常に大きい取り組みです。しかしその一方で、セキュリティ対策や社内体制の整備といった導入前に押さえるべきポイントも多く存在します。
本記事で紹介した導入手順や注意点を参考に、まずは特定の部署や契約書タイプに限定した小規模な試験導入から始めてみるとよいでしょう。実際の運用を通して効果や課題を検証し、段階的に全社へと展開することで、リスクを抑えながらスムーズに定着させられます。
ぜひ自社に合った形で電子契約の導入を進めてみてください。
サービスカテゴリ
AI・エージェント
ソフトウェア(Saas)