給与明細をメールで安全に送るには?法的注意点や課題を徹底解説
給与明細をメールで配信する企業が増えています。給与明細のメール配信は、コスト削減や業務効率化といったメリットがある一方で、個人情報の取り扱いやセキュリティ対策など、慎重に検討すべき課題も存在します。
本記事では、給与明細をメールで送る際の具体的な方法や法的な注意点、よくあるトラブルの対処法などを解説します。安全・効率的に給与明細を配信するために、ぜひ参考にしてください。
給与明細をメールで送る企業が増えている
働き方改革やDXの推進が進む中、給与明細の電子化を導入する企業が年々増加しています。従来の紙での配布から電子配信への切り替えは、もはや一部の先進的な企業だけの取り組みではなく、企業規模を問わず幅広く採用されるようになりました。
ピー・シー・エー株式会社が実施した「労務管理に関する実態調査」では、給与明細を紙で配布している企業は約4割にとどまり、それ以外の約6割の企業はWebサービスやPDFなどに移行していることがわかります。

この背景には、ペーパーレス化による環境負荷の軽減や、印刷・配布業務の効率化、郵送費や用紙代などの継続的なコスト削減効果があります。特にリモートワークが普及した現代では、出社頻度が減った従業員への給与明細配布手段として、メール配信の重要性がより高まっています。
給与明細をメールで送るメリット
給与明細のメール配信は、単なるコスト削減だけではなく、業務効率化やセキュリティ強化、従業員満足度の向上にもつながります。ここでは、企業がメール配信を導入することで得られる主なメリットを紹介します。
印刷・封入・配布の手間を削減できる
紙での給与明細配布では、毎月の給与計算完了後に大量の印刷、1枚ずつの封筒詰め、各部署への配布という一連の作業が必要です。これらの作業は時間と人手を要するだけでなく、月末という業務が集中する時期に追加の負担になります。
メール配信では、これらの物理的な作業がすべて不要になります。給与計算が完了したら、データを添付ファイルとして一斉送信するだけで配布が完了するため、担当者の作業時間を大幅に短縮できます。また、配布漏れや紛失といったヒューマンエラーのリスクも軽減され、より確実な配布が実現します。
郵送費・紙代などのコストを削減できる
メール配信では、完全なペーパーレス化が実現でき、継続的なコスト削減効果を期待できます。具体的には、給与明細用紙代や封筒代、印刷機のトナー代、さらに支社や営業所への郵送が必要な場合の切手代などが削減されます。
従業員数が多い企業ほど、コスト削減効果は顕著に現れます。例えば、従業員300名の企業の場合、年間で数十万円程度のコスト削減が可能となることも珍しくありません。また、紙の消費量削減は環境負荷軽減にもつながり、企業の社会的責任を果たす観点からも意義があります。
即時送信できる
メール配信では、給与計算が完了したその日のうちに全従業員に一斉送信できるスピード感が大きな特徴です。紙での配布では、印刷・封入・配布に数日要することが一般的ですが、メール配信なら数分で完了します。
特に給与日が月末など業務が立て込む時期には、このスピード感が業務効率に大きく影響します。また、給与計算に修正が生じた場合でも、迅速な再送信が可能で、従業員への影響を最小限に抑えられます。リモートワークを行う従業員や出張中の社員にも、場所を問わず確実に届けられる点も重要なメリットです。
給与明細をメールで送る際の注意点
給与明細には個人情報や給与額などの機密情報が含まれるため、メール送信には細心の注意が必要です。続いて、企業がメール配信を導入する際に押さえておくべき具体的な注意点を紹介します。
従業員の同意を事前に得る必要がある
給与明細の電子化は、従業員の同意を得た場合に可能であると所得税法231条によって定められています。また、口頭での同意は認められておらず、書面もしくは電磁的方法により行わないといけないと所得税法施行令第356条で定められています。
参考:所得税法|e-Gov法令検索
参考:所得税法施行令|e-Gov法令検索
つまり、給与明細の急なメール配信や、単に「メールで送ります」と通知することは認められておらず、法的な要件を満たす適切な手続きが必要です。具体的には、「給与明細の電子交付に関する同意書」などを作成し、各従業員から書面による同意を得る必要があります。
同意書には、電子交付の方法やセキュリティ対策、従業員が紙での交付を希望する場合の手続きなどを明記することが重要です。また、就業規則の変更もあわせて行い、電子交付に関する規定を整備しておくことで、運用の根拠を明確にできます。
セキュリティ対策が必須
給与明細は、氏名・住所・扶養家族情報・支給額・控除額など、漏洩した場合に重大な影響を与える個人情報を含んでいます。そのため、適切なセキュリティ対策が不可欠です。
例えば、給与明細をパスワード付きPDFファイルにして添付したり、送信元メールアドレスの偽装防止対策を行なったりする必要があります。
送信履歴・開封確認の管理体制の整備が必要
給与明細の交付は法的義務であるため、メール配布でも「確実に配布した」ことを証明できる仕組みの構築が重要です。従業員から「受け取っていない」「メールが見つからない」といった申し出があった場合に、適切に対応できる管理体制が求められます。
送信日時・宛先・件名などの詳細な送信ログを記録し、可能であれば開封確認機能を活用して従業員の閲覧状況も把握することが理想的です。また、迷惑メールフィルターによる受信阻害や、従業員のメール設定による受信エラーなども想定し、代替手段の準備も含めた包括的な管理体制を整備する必要があります。
給与明細をメールで送る際によくあるトラブルと課題
給与明細のメール配信は便利な反面、運用次第ではトラブルや業務負担が増えることもあります。ここでは、実際の企業で起こりがちなトラブルと課題を紹介します。
宛先間違いによる誤送信・情報漏洩が発生する
給与明細のメール配信で最も深刻なトラブルが、他の従業員に誤って別の人の給与明細を送ってしまうケースです。これは単なる事務ミスでは済まされず、個人情報漏洩事件として労働基準監督署への報告や、場合によっては損害賠償問題に発展する可能性があります。
特に危険なのは、一斉送信時のCCとBCCの設定ミスです。BCCで送信すべきところをCCで送信してしまうと、全従業員のメールアドレスが互いに見える状態となり、個人情報漏洩となります。
また、添付ファイルの取り違えや、メーリングリストの誤操作なども要注意です。手動でのメール作成・送信作業では、どれだけ注意深く行ってもヒューマンエラーのリスクは完全には排除できません。
パスワードの管理・伝達に手間がかかる
セキュリティ強化のため給与明細をパスワード付きPDFにすることは重要ですが、毎月のパスワード設定・通知・管理が予想以上に煩雑になることがあります。従業員ごとに異なるパスワードを設定する場合、パスワード生成・管理・通知作業だけで相当な時間を要します。
また、従業員から「パスワードがわからない」「メールを削除してしまった」「毎回パスワードが違って覚えられない」といった問い合わせが頻繁に発生することも珍しくありません。
従業員からの問い合わせ対応は担当者の業務を圧迫し、かえって非効率になる場合があります。パスワードの使い回しもセキュリティ上推奨されないため、バランスの取れた運用ルールの策定が課題となります。
迷惑メール・受信トラブルが発生する
企業から送信される添付ファイル付きメールは、受信側のメールシステムで迷惑メールと判定されることがあります。特に、パスワード付きZIPファイルやPDFファイルは、セキュリティソフトやメールサーバーによってブロックされやすい傾向があります。
また、従業員が個人のメールアドレスを使用している場合は、容量制限や受信設定によってメールが届かないことも頻繁に発生します。GmailやYahoo!メールなどのフリーメールでは、添付ファイルサイズの制限も厳しく、給与明細が受信できない事態が起こります。
これらの受信トラブルは従業員から苦情として寄せられることが多く、その都度個別対応が必要となるため、担当者の負担増につながります。
送信履歴が残らず管理が煩雑になる
手動でメール送信を行っている場合は、誰に・いつ・どのような内容で送信したかの詳細な記録が残らないことが大きな問題となります。送信済みメールフォルダに履歴は残りますが、大量の従業員への送信記録から特定の人の送信状況を確認するのは非常に困難です。
送信漏れが発生した場合や、従業員から「受け取っていない」という申し出があった場合に、確実な証跡を提示できないため、トラブル対応が困難になります。
また、過去の給与明細の再送信が必要になった際も、いつの分をどの形式で送信したかの記録が曖昧で、一貫性のない対応になりがちです。法的な観点からも、適切な交付記録の保管は重要な要件となります。
配信作業の手間が意外と多い
「メール送信なら簡単になる」と期待して導入したものの、実際の運用では予想以上に手間がかかることが判明するケースが少なくありません。給与計算完了後に、PDFファイル生成やファイル名の個別設定、パスワード設定、メール作成、宛先設定、添付、送信という一連の作業は、実は相当な時間を要します。
特に従業員数が多い企業では、個人別のファイル作成やメール送信作業だけで数時間を要することもあります。月末の繁忙期にこれらの作業が加わることで、担当者の業務負荷がかえって増加し、他の重要業務に支障をきたすことも珍しくありません。
効率化を目指したはずの施策が、結果的に業務負担を増やしてしまう本末転倒な状況が生まれることもあります。
給与明細を安全・効率的に送るには給与計算ソフトの活用がおすすめ
給与明細をメールで配信する際には、情報漏洩リスクや手間の多さといった課題がつきものです。これらの課題を根本から解決する手段として、給与計算ソフトの活用が非常に効果的です。ここでは、その理由を具体的に紹介します。
給与明細の作成からメール送信までを自動化できる
給与計算ソフトには、毎月の給与計算処理と同時に給与明細書を自動生成し、各従業員のメールアドレスに一斉送信する機能が搭載されています。手動での作業がほぼ不要となるため、担当者の作業時間を短縮でき、月末の業務集中を軽減できます。
業務の自動化により、ファイル名の設定ミスや添付忘れ、宛先間違いといったヒューマンエラーが根本的に排除されます。また、給与計算の修正が発生した場合でも、修正データに基づいて自動的に再生成・再送信が可能で、迅速な対応が実現します。
従業員の入退社や異動に伴うメールアドレスの変更も、人事マスタの更新と連動して自動反映されるため、送信先の管理も簡素化されます。
セキュリティ対策が標準搭載されている
給与計算ソフトでは、給与明細の機密性を保護するための高度なセキュリティ機能がシステムに組み込まれています。パスワード付きPDFの自動生成はもちろん、従業員ごとに異なる複雑なパスワードの自動生成・管理、SSL暗号化通信による安全な送信、アクセス制限付きのクラウド閲覧機能などが提供されています。
特に、従業員が専用のログインページから給与明細を閲覧できると、メールに機密情報を直接添付せず、情報漏洩リスクを大幅に削減できます。また、閲覧期限の設定や、端末認証機能なども活用でき、企業の情報セキュリティポリシーに応じた柔軟な運用が可能です。
送信ログや閲覧状況の管理ができる
給与計算ソフトには、給与明細の送信・閲覧に関する詳細なログを自動記録する機能が備わっています。誰に、いつ、どのような方法で明細を送信したかの履歴はもちろん、従業員の閲覧状況(開封済/未開封、閲覧日時、ダウンロード回数など)も一元管理できます。
閲覧状況の記録は、労働基準監督署からの指導や監査への対応、従業員からの問い合わせ対応、社内でのトラブル防止などに役立ちます。
また、未閲覧者への再通知や、システム障害時の影響範囲確認なども効率的に行えるため、管理業務の品質向上と効率化を同時に実現できます。送信証明書の発行機能を持つソフトもあり、法的な証跡管理の観点からも安心です。
パスワード設定や個別ファイル管理が不要になる
給与計算ソフトを活用すれば、従来手動で行っていた煩雑な作業の多くが自動化されます。従業員ごとのパスワード生成・管理や、個別PDFファイルの作成・命名、添付ファイルの設定などは、すべてシステムが自動で処理するため、担当者の作業負荷が大幅に軽減されます。
特にパスワード管理では、システムが自動的に複雑で安全なパスワードを生成し、従業員への通知も自動化されるため、「パスワードがわからない」といった問い合わせも激減します。また、ファイル形式や命名規則の統一、版管理なども自動化されるため、運用の一貫性が保たれ、設定ミスによる情報漏洩リスクも排除できます。
従業員の利便性も向上する
給与計算ソフトの導入は、従業員にとっても大きなメリットをもたらします。専用のマイページやアプリから、いつでも過去の給与明細を確認・ダウンロードできるため、確定申告や住宅ローン申込み時などに必要な書類を自分で取得できます。
これにより、「〇年〇月分の給与明細を再発行してほしい」といった再発行依頼が不要となり、人事担当者の対応業務も軽減されます。
また、従業員は自分の給与明細を電子的に整理・保管できるようになり、紛失の心配もありません。スマートフォンからもアクセス可能なシステムが多いため、外出先でも必要な時にすぐ確認できる利便性があります。
給与明細を「会社からもらうもの」から「自分で管理するもの」へと意識が変わることで、問い合わせ対応の手間も自然と減少します。
まとめ
給与明細のメール配信は、コスト削減と業務効率化を実現する有効な手段ですが、セキュリティ対策や法的要件への対応、運用管理の複雑さといった課題も抱えています。特に手動でのメール送信では、誤送信リスクや管理の煩雑さから、期待した効果を得られないことも少なくありません。
給与計算ソフトを活用すると、手動作業によるヒューマンエラーがなくなり、高度なセキュリティのもと、効率的な履歴管理や従業員の利便性向上などが実現します。給与明細の電子化を検討している企業は、単純なメール配信ではなく、給与計算ソフトを活用することで、効率的で安全な給与明細の管理・配信を実現できるでしょう。
自社に最適な給与計算ソフトを見つけるには?
給与計算ソフトは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
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