会計処理とは?基本的な流れと正確な記録のポイントを解説
企業が日々の取引を正確に記録し、適切に管理することは法律で義務付けられています。しかし、勘定科目の選び方や新しい取引の処理方法に迷うことも多く、決算や税務申告に向けて精度を保ちたい場面は少なくありません。
会計処理は、会社法・法人税法などのルールに沿って取引を記帳する重要な業務です。処理を誤ると、決算書の信頼性が揺らいだり、税務申告でトラブルが生じる可能性があります。
この記事では、会計処理の基本的な考え方に加え、日次・月次・年次それぞれの具体的な業務内容を解説します。また、企業会計原則に基づくポイントや会計ソフトを使った効率化の方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
会計処理とは?
会計処理とは、日々発生する取引を適切な勘定科目に分類し、仕訳として帳簿へ記録していく業務です。売上の発生、経費の支払い、商品の仕入れなど、あらゆる取引について「いつ・何が・いくら動いたのか」を記録することで、企業の財務状況や経営成績を正確に把握できるようになります。
会計処理が必要とされる法的根拠
会社法では、株式会社に対し、取引を記録した計算書類や帳簿を作成・保存する義務が定められています。これは、企業の財務状況を正しく把握し、株主や債権者などの利害関係者へ適切に情報を開示するためです。
さらに、法人税法や消費税法でも帳簿保存と記帳義務が規定されており、税務申告の正確性を確保するために、取引の事実を証明できる帳簿や証憑の保管が求められます。つまり、正確な会計処理は、法令遵守と信頼性の高い財務報告の両方に直結する重要な業務といえます。
会計処理と決算書・税務申告との関係
会計処理で記録された取引データは、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成する基礎となります。また、法人税や消費税の申告書に必要な金額も、すべて会計処理をもとに算出されます。売上高・経費・利益といった数値は、日々の仕訳が正確に記録されていることが前提です。
会計処理に誤りがあれば、決算書の信頼性を損ねるだけでなく、税務申告のミスにもつながります。つまり、会計処理は企業経営を支える根幹的な業務といえます。
会計処理のミスは年々増加している


東京商工リサーチの報告によると、2024年度に不適切会計を公表した上場企業は67社・67件にのぼり、社数・件数ともに4年連続で増加しました。中でも最も多かったのは「経理・会計処理ミス」で35件を占めています。この数字は、上場企業であっても会計処理の精度を保つことが容易ではないことを示しています。
こうした背景からも、会計処理の重要性と慎重な運用の必要性は明らかです。日々の取引記録から決算に至るまで、一貫して正確さを維持できる体制づくりが欠かせません。
会計処理の基本的な流れ
会計処理の中心となるのは、取引を仕訳として記録する作業です。企業では日々さまざまな取引が発生するため、仕訳のタイミングも段階ごとに分かれます。その区分が「日次」「月次」「年次」の3つです。各段階で適切に処理を進めることで、企業の財務状況を正確に把握し、決算や税務申告も滞りなく行えるようになります。
日次の会計処理
日次の会計処理では、その日に発生した取引を証憑に基づいて記録します。日々の仕訳を積み重ねておくことで、月末や決算時の負担を大きく減らせます。また、取引内容を覚えているうちに記帳できるため、勘定科目の誤りや金額違いなどのミスも防ぎやすくなります。ここでは、日次で行う主な会計処理を紹介します。
証憑の収集・整理
日次業務の基本は、取引に関する証憑を集めて整理することです。証憑とは、取引が実際に行われたことを示す書類を指し、請求書・領収書・通帳の明細・クレジットカード明細などが該当します。
証憑を揃えた上で、取引日・金額・取引先・内容が明確かどうかを確認します。証憑が不十分だと、後から内容を確認しづらくなるだけでなく、税務調査で指摘を受けるリスクも高まります。
日々の取引の仕訳入力
売上・仕入・経費・入金・出金など、日々の取引を適切な勘定科目で仕訳します。例えば、商品を販売した際は「売掛金/売上」、文具を購入した場合は「消耗品費/現金」といった形で記録します。
勘定科目の誤りは、決算書の精度や税務申告に影響するため、内容に応じて正確に分類することが欠かせません。
現金の実際残高の確認
現金商売や小口現金を扱う企業では、日々の現金残高の確認が欠かせません。現金は紛失や盗難のリスクがあるため、実際の残高と帳簿の残高を毎日照合することが重要です。
現金出納帳にその日の入出金を記録し、実残高と帳簿残高が一致しているかをチェックします。差異があれば、その日のうちに原因を調べ、誤記や計算ミスを訂正します。早期対応により、大きなトラブルを避けられます。
預金口座の入出金確認
銀行口座の入出金を正しく把握し、取引内容を仕訳に反映します。通帳記帳やインターネットバンキングで明細を確認し、どの取引による入金・出金なのかを特定します。
また、取引先からの入金、経費の引き落とし、振込手数料など、内容に応じて適切な勘定科目で仕訳します。不明な入出金がある場合は、早めに取引先や銀行へ確認することが大切です。
売掛金・買掛金の発生確認
請求書の発行や受領に合わせて、売掛金・買掛金がどの取引に対応するのかを確認します。売上を計上した際には売掛金が、仕入や経費を計上した際には買掛金が発生します。
売上や経費の計上漏れを防ぐため、取引日・金額・締め日が一致しているかをチェックします。請求書の内容と実際の取引が合っているか、金額に誤りがないかを丁寧に確認することが重要です。
経費精算の受付・確認
従業員の立替経費が申請された場合は、領収書の内容・金額・日付・業務関連性を確認し、適切な勘定科目で仕訳します。交通費や接待費、消耗品費など、内容に応じて科目を選択します。
不備がある場合は申請者へ確認し、正確な証憑をもとに処理します。日付が古い、金額が不明瞭、業務との関連性が不明といったケースでは、再提出を求めることも必要です。
月次の会計処理
月次の会計処理は、1か月間の取引を確定させ、財務状況を把握するために行う作業です。日次の記録をもとに、月末時点の残高や未処理取引を整理し、月次試算表を作成します。これにより、経営者は毎月の業績を確認でき、必要な経営判断をタイムリーに行えます。ここでは、月次で実施する主な会計処理を紹介します。
月次残高の確認
現金・預金・売掛金・買掛金など、主要勘定科目の月末残高を確認します。帳簿の残高と実際の残高が一致しているかを照合することが大切です。
通帳残高との照合、売掛金の未入金チェック、買掛金の未払確認を行い、不一致があれば原因を特定します。記帳漏れ、重複計上、勘定科目の誤りなどが考えられるため、丁寧に確認します。
請求書の発行・受領の締め処理
売上請求書を月末までに発行し、売掛金が正しく計上されているかを確認します。請求書の発行漏れは売上計上漏れにつながるため、取引先ごとにチェックが必要です。
一方、仕入や外注費などの請求書についても、受領したものをすべて記帳しているか確認します。届いているのに記帳されていない場合、経費が計上されず利益が実態より大きく見える恐れがあります。
経費の計上漏れ・未払費用の整理
領収書の提出漏れや、月末時点で未払いとなっている費用を確認し、必要に応じて「未払費用」として計上します。実際の支払いがまだでも、サービスを受けた分はその月の費用として認識する必要があります。
例えば、電気代やガス代は翌月に請求書が届くことが多いため、月末時点で未払費用として処理します。これにより、その月に発生した費用を正しく把握できます。
前払費用・仮払金の精査
保険料や家賃などを前払いしている場合は、発生期間に応じて前払費用を按分します。例えば、1年分の保険料を支払った場合は、その月に該当する分だけを費用として計上し、残りは前払費用として資産に計上します。
また、仮払金の精査では、未精算の立替金が適切に処理されているかを確認します。出張費の仮払いなど、精算が滞っている項目を洗い出し、早めの精算を促すことが重要です。
固定資産の計上・減価償却費の月次処理
月中に固定資産を購入した場合は、取得価額・利用開始日・耐用年数を整理し、適切に資産として計上します。PCや備品、車両など、長期間使用するものが固定資産に該当します。
また、減価償却費を会計基準や税法に従って月次で処理すると、月次損益の精度が高まります。毎月一定額を費用として計上することで、固定資産の価値減少を適切に反映できます。
月次振替仕訳の計上
賞与引当金、退職給付引当金、売上原価計算に関わる振替仕訳など、必要に応じて調整仕訳を計上します。これらを決算時だけでなく月次でも処理することで、より正確な月次損益を把握できます。
例えば賞与引当金は、将来支払う賞与に備えて毎月一定額を費用として計上します。こうしておくと、賞与支給月に費用が集中するのを防ぎ、各月の損益を平準化できます。
消費税の課税区分の確認
課税・非課税・不課税の区分を確認し、消費税計算が正しく行われているかを月次でチェックします。消費税は制度が複雑なため、区分を誤ると税額に影響が出ます。
特に、課税仕入が控除対象かどうかの整理が重要です。すべての仕入や経費が控除できるわけではないため、内容を確認しながら適切に区分します。
月次試算表の作成
残高確認や調整仕訳が終わったら、月次試算表を作成し、売上・粗利・営業利益などの数値を確認します。月次試算表は、その月の経営成績と財務状態を把握するための重要な資料です。
経営者や管理職は、試算表をもとに予算や前月・前年との比較を行い、経営判断に役立てます。異常値や計上漏れがないかをチェックすることも欠かせません。
年次の会計処理
年次の会計処理は、1年間の取引を最終的に確定し、決算書や税務申告書を作成するために行う重要な業務です。日次・月次で積み重ねてきた記録をもとに、会計年度全体の数値をまとめ上げます。
決算書は株主・金融機関・税務署などに提出する公式な資料であり、高い精度と信頼性が求められます。ここでは、年次で実施する主な会計処理を解説します。
決算整理仕訳の計上
1年間の取引を正しい期間に帰属させるため、未払費用・前払費用・未収収益・前受収益などの決算整理仕訳を行います。これは、収益と費用を適切な期間に配分する「発生主義会計」の原則に基づく作業です。
例えば、3月決算の企業が12月に1年分の保険料を支払った場合、1〜3月分は当期の費用、4月以降は翌期の費用として処理します。こうした調整により、各期の損益を正確に表示できます。
固定資産の実査・減価償却費の確定
所有する固定資産の実在性や使用状況を確認し、不要資産や除却すべき資産がないかを精査します。帳簿上は存在していても、実際には廃棄済みだったり、使用されていない資産があったりする場合は適切に処理します。
減価償却費は、耐用年数(法人税法の基準)と残存簿価をもとに当期分を計算します。定額法・定率法など、選択した償却方法に従って算定し、固定資産の帳簿価額を減額します。
引当金の計上
賞与引当金、退職給付引当金、貸倒引当金など、計上が認められている引当金を整備します。引当金は、将来発生する可能性が高い費用や損失に備えて計上する項目です。
例えば貸倒引当金は、売掛金の回収不能リスクに備えて設定します。過去の貸倒実績などを基に合理的な金額を算定し、計上します。適切な引当金の設定により、財務状況をより慎重かつ正確に示せます。
消費税の年間計算
課税売上と課税仕入を1年間分集計し、課税売上割合を確定します。消費税の申告は年度単位で行われるため、年間の取引を漏れなく集計することが必要です。
課税売上割合は、控除できる消費税額を算定する上で重要な指標です。非課税売上の割合が高い場合、仕入にかかる消費税の控除額が制限されることがあります。
計算書類の作成
会社法で定められた計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記)を作成します。これらは企業の財務状況や経営成績を示す正式な書類であり、株主総会での承認が必要です。
貸借対照表は決算日時点の財政状態を、損益計算書は1年間の経営成績を表します。これらの資料は税務申告書の基礎となるだけでなく、金融機関への提出や、公開会社では開示義務の対象にもなります。
会計処理は企業会計原則に沿って行う
企業の会計処理は、企業会計審議会が定める「企業会計原則」に従って行うことが求められます。企業会計原則は、日本における会計の基本的な枠組みであり、すべての企業に共通する基準です。
その中でも「一般原則」には、会計処理の土台となる7つのルールが示されています。
- 真実性の原則:財務諸表は事実に基づき正しく表示する
- 正規の簿記の原則:複式簿記によって記録する
- 資本利益区分の原則:資本取引と損益取引を区別する
- 明瞭性の原則:誰が見てもわかりやすい形式で表示する
- 継続性の原則:会計処理を毎期同じ方法で行う
- 保守主義の原則:不確実な場合は慎重に評価する
- 単一性の原則:会計帳簿は1つに統一し、二重帳簿を禁止する
これらの原則は、日次・月次・年次すべての会計処理に影響し、一貫性と信頼性を確保します。例えば、継続性の原則により、任意に減価償却方法を変更することは認められません。また、保守主義の原則では、資産の過大評価や費用の過小評価を避ける姿勢が求められます。
会計ソフトを活用して会計処理を効率化しよう
会計ソフトを活用すれば、仕訳入力や残高管理、消費税計算などの作業を効率化でき、会計処理の精度も向上します。手作業での記帳に比べ、入力ミスや計算ミスを大幅に減らせる点が大きなメリットです。
また、会社法や法人税法・消費税法で求められる帳簿保存・記帳義務を確実に果たす上でも、会計ソフトは有効です。ここでは、会計ソフト導入によって得られる主なメリットを紹介します。
自動仕訳ルールの設定で入力作業を削減できる
繰り返し発生する取引は、自動仕訳ルールを設定することで自動処理できます。例えば、毎月同じ金額の家賃や通信費などは、一度ルールを登録すれば自動的に仕訳が作成されます。
担当者が毎回同じ入力をする必要がなくなり、会計処理の標準化と効率化が進みます。また、処理のばらつきが減るため、業務の属人化防止にもつながります。
銀行口座・クレジットカードと自動連携できる
クラウド型の会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込めます。インターネットバンキングやカード会社のデータと連携し、取引情報をそのまま会計ソフトに反映できる仕組みです。
取引データが自動で反映されるため、手入力の手間が減り、仕訳漏れや入力ミスの防止に役立ちます。毎日の入出金を手作業で入力する必要がなくなり、経理担当者の負担を大きく軽減できます。
証憑管理を電子化できる
請求書・領収書・レシートを電子データとして保存でき、スマートフォンで撮影した画像やPDFファイルをそのまま会計ソフトに取り込めます。
電子帳簿保存法に対応した機能も広く普及しており、紙より効率的で検索性の高い管理が可能です。過去の証憑も日付や金額で簡単に検索できるため、税務調査への対応もスムーズになります。
残高を自動集計できる
会計ソフトは、売掛金・買掛金・仮払金・前払費用などの残高を自動で集計でき、月末や決算時に手作業で集計する必要がありません。リアルタイムで残高を確認できる点も大きな利点です。
この機能は決算整理仕訳のミス発見にも役立ち、財務データの精度向上に貢献します。残高にズレが生じた場合も、どの取引に問題があるか早期に特定し、修正できます。
固定資産管理・減価償却を自動計算できる
固定資産台帳機能を備えた会計ソフトでは、取得価額・耐用年数・償却方法を登録するだけで減価償却費を自動計算できます。毎月や毎年の償却額を手作業で計算する必要がありません。
法人税法上の耐用年数にも対応しているため、税務申告に必要な数値を正確に算出できます。固定資産の取得や除却が発生した場合も、ソフト上で管理することで計算ミスを防げます。
消費税計算を自動化できる
会計ソフトでは、課税売上・課税仕入・非課税・不課税の区分を自動管理でき、消費税額を正確に計算できます。仕訳入力時に消費税区分を選ぶだけで、自動的に集計される仕組みです。
消費税申告書を作成できるソフトもあり、申告業務の効率化にも役立ちます。軽減税率にも対応しているため、複雑な消費税計算を正確に処理できます。
まとめ
会計処理は、企業が日々の取引を正確に記録し、月次・年次の財務数値を確定させるために欠かせない業務です。日次・月次・年次それぞれのプロセスを正しく理解し、企業会計原則に沿って処理することで、一貫性と正確性が保たれます。
会計処理では「正確さ」「継続性」「基準の理解」が特に重要です。勘定科目の誤りや計上漏れは決算書や税務申告に直結するため、日常の記録から慎重に取り組む必要があります。
会計ソフトを活用すれば、仕訳入力・証憑管理・残高照合・減価償却・消費税計算など多くの業務を効率化でき、担当者の負担軽減やミス防止にも効果的です。法令遵守と業務効率化を両立させるためにも、自社に合った会計ソフトの導入を検討する価値があります。
自社に最適な会計ソフトを見つけるには?
会計ソフトは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
自社に最適な会計ソフトを見つける際には「FitGap」をご利用ください。FitGapは、自社にぴったりの製品を選ぶための無料診断サービスです。簡単な質問に答えていくだけで、自社に必要なシステム要件が整理でき、各製品の料金や強み、注意点、市場シェアなどを知ることができます。
自社にぴったりの会計ソフトを選ぶために、ぜひFitGapをご利用ください。
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