会計の原則とは?企業会計原則の7つの一般原則と実務での活用方法
正確な会計処理を行い、外部監査や内部統制に対応するためには、会計の土台となる考え方を理解しておくことが欠かせません。
日本の会計実務では、財務諸表作成の基本規範として「企業会計原則」が位置づけられています。会社法や金融商品取引法に基づく財務報告では、企業会計原則に沿った処理が求められます。
この記事では、企業会計原則の構成や7つの一般原則、実務での活用場面などを解説します。
企業会計原則とは?
企業会計原則とは、日本企業が財務諸表を作成する際に従うべき基本的な考え方をまとめた基礎規範です。会社法や金融商品取引法にもとづく財務報告の信頼性を保つうえで欠かせず、日本の会計基準(J-GAAP)の土台にもなっています。
法そのものではありませんが、会社法や金融商品取引法で「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として位置づけられており、実務上は法的拘束力を持つ基準として扱われています。
企業会計原則の構成
企業会計原則は、7つの基本原則をまとめた「一般原則」、損益認識や費用配分を定める「損益計算書原則」、資産・負債・純資産の表示ルールを示す「貸借対照表原則」の3つで構成されています。
一般原則は会計処理全体に共通する考え方を示し、損益計算書原則と貸借対照表原則はそれぞれの財務諸表で適用すべき具体的なルールを定めています。これらが相互に補完し合うことで、財務諸表の適正性が担保される仕組みです。
実務では、まず一般原則で基本方針を確認し、個別の取り扱いは損益計算書原則・貸借対照表原則で判断するという流れで活用されます。
企業会計原則と会社法・金融商品取引法の関係
会社法や金融商品取引法にもとづく財務諸表は、公正妥当な会計基準に従って作成することが求められます。その中心に位置づけられているのが企業会計原則で、法令で明示された重要な基準として扱われています。
会社法第431条では、計算書類は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことが規定され、金融商品取引法でも財務諸表の作成基準として企業会計原則が参照されます。つまり、企業会計原則に沿わない財務諸表は、法的に適正性を欠くと判断される可能性があります。
さらに、監査法人による会計監査でも企業会計原則への準拠は重要なチェック項目です。上場企業だけでなく、会計監査人設置会社にとっても、企業会計原則の理解と適用は欠かせません。
企業会計原則の7つの一般原則
企業会計原則の一般原則は、財務諸表を作成する上で必ず押さえておきたい7つの基本的な考え方をまとめたものです。日本の会計実務の土台となる規範であり、会計処理で判断に迷ったときのよりどころにもなります。
一般原則の7つの原則は、財務情報の真実性・継続性・比較可能性を確保するために欠かせません。ここでは、それぞれの原則のポイントを解説します。
①真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
財務諸表は、企業の財政状態や経営成績を正しく示さなければなりません。真実性の原則はその大前提であり、不適切な処理や粉飾決算を防ぐための最も重要な原則です。
ここでいう「真実」とは、会計基準に従って適切に処理された相対的な真実を指します。同じ取引に複数の会計処理方法が認められる場合でも、恣意的な判断や意図的な歪曲は許されません。
実務では、資産の過大計上や費用の繰り延べなど、経営成績を実際よりよく見せる処理が真実性の原則に反する典型例です。会計担当者は、経営層からの要望があっても真実性の原則に基づき、適正な処理を徹底する必要があります。
②正規の簿記の原則
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
正規の簿記の原則は、複式簿記に基づいて正確な帳簿を作成し、取引を適切に記録することを求める原則です。帳簿が正規に整備されていることは、財務諸表の信頼性を支える土台になります。
正規の簿記が満たすべき主な要件は次の通りです。
- すべての取引を漏れなく記録すること
- 発生順に整然と記録すること
- 記録内容が検証可能であること
- 帳簿間の関連性が明確であること
実務では会計ソフトの活用により複式簿記の要件はほぼ自動で満たされますが、仕訳入力の正確性や証憑の保管など、人の管理が必要な部分も多く残ります。また、修正仕訳を行う際は元の記録を消さず、修正の経緯が追跡できる形で処理することが、正規の簿記の原則に沿った対応です。
③資本取引・損益取引区分の原則
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
資本取引・損益取引区分の原則は、株主との取引(出資・配当など)と、事業活動による損益取引を混同してはならないという考え方です。資本の増減と利益の増減を明確に区別することで、財務諸表を正しく読めます。
資本取引には、株主からの出資や配当、自己株式の取得などが含まれ、これらは損益計算書を経由せず、貸借対照表の純資産に直接反映されます。一方、損益取引は売上・費用など事業活動に伴うもので、損益計算書で当期純利益を計算した上で、貸借対照表の利益剰余金に振り替えられます。
この区分を誤ると、企業の経営成績が正しく示されません。例えば、資本剰余金を費用の補填に使うような処理は、資本取引・損益取引区分の原則に反します。実務では、組織再編や株式報酬制度など複雑な取引ほど、資本取引・損益取引区分の原則にもとづく慎重な判断が欠かせません。
④明瞭性の原則
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
明瞭性の原則は、財務諸表を利用する人が内容を理解しやすいよう、明確な形で表示しなければならないという考え方です。科目の区分や注記の記載も、すべて明瞭性の原則を前提に行われます。
明瞭性を確保するための主な要件は次の通りです。
- 勘定科目は取引の実態を正しく表す名称にする
- 重要な項目は独立して表示する
- 資産・負債は流動・固定など適切に分類する
- 必要な注記を漏れなく記載する
実務では、異なる性質の取引を1つの科目にまとめると明瞭性が損なわれます。例えば、売掛金と未収入金を区別せずに表示したり、重要な偶発債務を注記しなかったりするケースは明瞭性の原則に反します。会計ソフトの科目設定においても、取引実態に合う科目体系を整えることが欠かせません。
⑤継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
会計方針や評価方法は、毎期一貫して適用する必要があり、恣意的に変更してはいけません。継続性の原則によって各期間の財務数値が比較可能となり、利益操作の防止にもつながります。
継続性の原則が適用される主な項目は次の通りです。
- 減価償却方法(定額法・定率法など)
- 棚卸資産の評価方法(先入先出法・移動平均法など)
- 引当金の計上基準
- 収益認識のタイミング
正当な理由なく評価方法を変更すると、期間比較が難しくなるだけでなく、利益操作の疑いを招く可能性があります。ただし、会計基準の改正や事業環境の変化など合理的な理由がある場合は変更が認められ、その際は注記で内容と影響額を開示する必要があります。
実務では、一度定めた会計方針を原則として継続し、システム変更や担当者交代の際にも確実に引き継ぐ姿勢が求められます。
⑥保守主義の原則
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
保守主義の原則は、将来の不確実性を踏まえ、損失は早めに認識し、利益を過大に見積もらないよう慎重に判断することを求める原則です。過大な資産計上や利益操作を防ぐ役割があります。
保守主義の原則にもとづく代表的な会計処理は次の通りです。
- 棚卸資産を原価と時価のいずれか低い方で評価する(低価法)
- 将来の損失に備えて貸倒引当金を設定する
- 減損の兆候がある固定資産の価値を見直す
- 訴訟など偶発損失の可能性を引当金として計上する
ただし、保守主義を過度に適用し、意図的に利益を抑えるような処理は真実性の原則に反します。合理的な範囲で慎重に判断し、他の原則とのバランスを取ることが重要です。また、近年の会計基準は保守主義より中立性を重視する傾向にあり、過度に保守的な処理は避けることが求められています。
⑦単一性の原則
株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。
単一性の原則は、会社法および金融商品取引法にもとづく財務諸表は、本質的に同じ基準で作成すべきとする原則です。財務報告全体の一貫性と比較可能性を確保する役割があります。
日本では、会社法の計算書類と金融商品取引法の財務諸表という2つの制度がありますが、単一性の原則により両者は同一の会計帳簿から作成され、基本的には同じ数値が使われます。
ただし、表示方法や注記事項などの細部には差異があります。会計処理は同じ基準で行いつつ、それぞれの法制度の開示要件に合わせて表示を調整する仕組みです。
実務では、1つの会計データを会計ソフトで管理し、そこから会社法用・金商法用の財務諸表を出力する方法が一般的です。帳簿を分けて作成することは、単一性の原則に反する上、管理の手間やミスのリスクも高まります。
実務で企業会計原則が必要となる場面
企業会計原則は、知識として理解するだけでなく、日々の経理処理から決算・開示・監査対応まで、実務のあらゆる場面で判断基準として活用されます。特に新しい取引や判断が難しいケースでは、企業会計原則に立ち返ることで適切な会計処理が可能になります。
ここでは、実務で企業会計原則が必要となる主な場面を紹介します。
新規取引・複雑な取引の会計処理を判断するとき
新しいビジネスモデルや契約形態、収益認識の方法など、従来の処理がそのまま適用できない取引が発生した場合は、まず企業会計原則に基づいて判断の方向性を整理します。
例えば、サブスクリプション型サービス、クラウドソフト、暗号資産の取得といった取引は、明確な会計基準が十分に整備されていないケースもあります。このような場合は、真実性や明瞭性の原則に照らし、取引の経済的実態を適切に反映する処理を検討する必要があります。
また、製品販売とメンテナンスを組み合わせた契約など、複数の要素が含まれる取引では、資本取引・損益取引区分の原則や収益認識の考え方を踏まえ、各要素を適切に分解・認識することが求められます。
実務では、まず企業会計原則で基本的な方向性を定め、その上で個別の会計基準や注記を参照して具体的な処理を決定するアプローチが有効です。
会計方針や評価方法を決定・変更するとき
減価償却方法や棚卸資産の評価方法を変更する際は、継続性の原則に照らして慎重に判断する必要があります。企業会計原則を理解しておくことで、変更の正当性や影響を適切に検討できます。
会計方針を変更する場合には、次のような正当な理由が求められます。
- 会計基準の改正に伴う義務的な変更
- 事業内容や取引形態が大きく変化した場合
- 財政状態・経営成績をより適切に表示するための自主的な変更
逆に、利益の増減や業績予想との調整といった目的だけで行う変更は認められません。実務では、変更の必要性について経営層・監査役・監査法人と協議し、影響額を算定した上で、注記で十分な説明を行うことが求められます。
また、会計ソフトの設定変更を伴う場合は、過去データとの整合性を保つため、期首への遡及適用とするか、将来のみの適用とするかなど、適用方法についても慎重に検討する必要があります。
決算書を作成するとき
貸借対照表や損益計算書を作成する際は、科目区分・金額表示・注記の要否など、多くの判断が必要になります。これらは明瞭性の原則や正規の簿記の原則にもとづき、適切に表示しなければなりません。
決算書作成における企業会計原則の主な適用例は次の通りです。
- 科目の適切な分類(流動・固定、営業・営業外など)
- 重要性を踏まえた独立表示や注記の判断
- 引当金計上の要件確認(保守主義の原則)
- 期間比較を確保するための表示方法の継続(継続性の原則)
実務では、会計ソフトの試算表をそのまま決算書にせず、企業会計原則に照らして科目の妥当性や金額の合理性を確認する作業が欠かせません。特に、新たに発生した科目や大きく変動した科目は、明瞭性の原則にもとづき、注記が必要かどうかを判断します。
また、監査法人や税理士からの指摘事項も、企業会計原則を理解しておくことで、その背景や意図を適切に把握し、正しく対応できます。
会計原則と会計基準の違い
会計実務では「会計原則」と「会計基準」が混同されがちですが、両者は役割が異なります。企業会計原則は日本の会計実務の土台となる基本理念であり、その考え方を具体的なルールとして体系化したものが、日本会計基準(J-GAAP)、米国会計基準(US-GAAP)、国際財務報告基準(IFRS)といった会計基準です。
会計原則は財務報告の基本的な考え方や判断の指針を示すものです。一方、会計基準は収益認識や金融商品、固定資産などの項目ごとに詳細な取り扱いを定めています。いわば、会計原則を実務レベルに落とし込んだルールが会計基準です。
実務では、まず企業会計原則で基本となる方向性を確認し、その後に該当する会計基準で具体的な処理方法を調べるという順序で判断を進めます。会計基準に明確な規定がない場合や解釈が難しい場面では、企業会計原則に立ち返ることで適切な判断が可能になります。
また、国際財務報告基準を適用している企業であっても、会社法の計算書類は企業会計原則に基づく必要があるため、企業会計原則の理解は引き続き重要です。
まとめ
企業会計原則は、日本の会計実務の基礎となる最重要規範であり、決算書の信頼性を確保し、利害関係者へ正しい財務情報を提供するために欠かせません。7つの一般原則を中心に、会計実務のあらゆる場面で判断基準として機能します。
さらに、企業会計原則の理解は会計ソフトの設定・運用にも直結し、内部統制の強化や会計処理の品質向上につながります。科目設定や仕訳ルールを決める際も、企業会計原則に沿って判断することで、より適正な会計データを蓄積できます。
企業会計原則を正しく押さえ、日々の実務判断に活かすことで、財務報告の精度と信頼性は大きく向上します。会計担当者だけでなく、経営層や監査役にとっても、企業会計原則の理解は適正な財務報告体制の構築に不可欠です。
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