【管理職の勤怠管理】法的リスクを回避するポイントと効率的な運用方法を紹介
管理職の勤怠管理は、多くの企業で「必要ない」「対象外」と思われがちですが、実際には法的な観点からも組織運営の観点からも重要な業務です。
本記事では、管理職の勤怠管理における法的ポイントから実務上の課題、効率的な運用方法まで、企業の人事・労務担当者が押さえておくべき情報をお伝えします。
管理職の勤怠管理の重要性
管理職の勤怠管理は、法的リスクの回避、健康管理、組織運営の観点から極めて重要な取り組みです。「管理職だから労働時間管理は不要」という考え方は、現在の法制度や企業環境においては適切ではありません。ここでは、なぜ管理職の勤怠管理が必要なのか、その根拠となる法的背景や実務上のリスクを詳しく説明します。
労働基準法で定められている
労働基準法では、管理監督者に該当しない一般管理職の場合、通常の従業員と同様に労働時間管理が必須とされています。また、たとえ管理監督者に該当する場合であっても、労働時間の把握が必要です。
2019年の働き方改革関連法の施行により、健康管理の観点から労働時間の把握が企業に義務付けられました。厚生労働省の運用指針では、管理監督者に対しても適切な労働時間の把握と記録を企業に求めており、怠った場合には指導の対象となる可能性があります。
さらに、未払い残業代請求のリスク回避や法令遵守の観点からも、管理職の労働時間管理は欠かせません。役職の有無に関わらず、すべての管理職に対して適切な勤怠管理体制を整備することが企業には求められています。
長時間労働によって組織運営にリスクが生まれる
管理職は、一般従業員と比較して業務量が多く、部下のマネジメントや業績管理、経営陣との調整など多岐にわたる責任を担うため、長時間労働に陥りやすい傾向があります。特に人手不足が深刻化している企業では、管理職1人ひとりにかかる負担が増大しており、適切な労働時間管理を行わなければ健康面に深刻な影響を与える可能性があります。
過労による体調不良やメンタルヘルス不調が発生した場合は、労災申請のリスクが高まります。管理職の労災認定は近年増加傾向にあり、企業にとって大きな経済的負担となるだけでなく、社会的な信用失墜にもつながりかねません。
また、優秀な管理職が体調不良により離職することになれば、組織の運営体制に大きな影響を与え、業務の継続性や部下のモチベーション低下など、組織全体のパフォーマンス低下を招く恐れもあります。
健康経営を重視する企業が増えている昨今では、管理職の労働時間管理が従業員全体の労務環境改善を示す象徴的な取り組みとして位置づけられており、企業価値向上の観点からも重要な要素となっています。
企業全体のコンプライアンス強化につながる
管理職は、部下の勤怠承認や労働時間管理に関する責任を担う重要な立場にあります。しかし、管理職自身の勤怠管理が形骸化していると、部下への勤怠指導が徹底されなくなり、組織全体のコンプライアンス意識の低下を招く結果となります。
「管理職が時間管理をしていないのに、なぜ部下だけが厳格に管理されるのか」という疑問が生まれれば、労務管理に対する信頼性が失われ、組織全体の規律が緩んでしまいます。
管理職の勤怠管理を徹底することで、企業として法令遵守の姿勢を明確に示せ、労務トラブルの予防にもつながります。特に、近年増加している労働時間に関する訴訟リスクを考慮すると、管理職を含めた全従業員に対する一貫した勤怠管理体制の構築は、企業防衛の観点からも不可欠です。
また、適切な勤怠管理を通じて管理職が自らの労働時間を客観視することで、業務効率の改善や部下への適切な業務配分にもつながり、組織全体の生産性向上に寄与することも期待できます。このように、管理職の勤怠管理は単なる法的義務の履行にとどまらず、組織文化の改善と企業価値向上のための重要な基盤となります。
管理職の勤怠管理で押さえるべき法的ポイント
管理職の勤怠管理は、一般従業員とは異なる法的な取り扱いがあり、正確な理解と適切な運用が求められます。複数の制度が関わるため、それぞれの要件や注意点を詳しく把握することが重要です。以下では、管理職の勤怠管理に関する法律上の重要なポイントを具体的に解説します。
管理監督者の定義
管理監督者とは、労働時間や休憩、休日に関する規制が適用除外となる特別な地位にある管理職を指します。労働基準法においては、「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」として定義されています。
ただし、単に「部長」「課長」といった役職名があるだけでは管理監督者として認められません。具体的には、以下の基準を満たしているかどうかで判断されます。
- 部門の人事権や予算執行権を持ち、経営会議への参加など経営に関わる重要な意思決定に関与している
- 出退勤時間を自由に決められ、部下の労働時間管理に関する権限を有している
- 管理監督者手当などにより、一般従業員より優遇された処遇を受けている
これらの基準を満たすかどうかで、労働時間の規制対象となるかが決まるため、企業は慎重に判断する必要があります。実際の運用では、名目上の管理職であっても実態が管理監督者の要件を満たさない場合が多く、適切な労働時間管理が必要となるケースが大半を占めています。
労働時間規制
管理監督者として認定された管理職は、労働基準法の時間外労働や休日労働に関する規制の対象外となるため、基本的に残業代の支払い義務は生じません。
これは、管理監督者が経営者側の立場として自らの労働時間を管理する裁量を有しているという考え方に基づいています。ただし、深夜労働に対する割増賃金の支払い義務は残るため、午後10時から午前5時までの時間帯に勤務した場合には、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、2019年の働き方改革関連法の施行により、管理監督者であっても健康管理のために労働時間の把握が推奨されるようになりました。厚生労働省のガイドラインでは、管理監督者に対しても適切な労働時間の記録と健康確保措置を講じることを企業に求めています。長時間労働が続く場合には、医師による面接指導の実施も必要となります。
そのため、管理監督者に該当する管理職であっても、勤怠時間の管理や健康状態の把握は重要な業務となっています。企業としては、法的リスクを回避しながら管理監督者の健康を守るため、適切な勤怠管理体制を整備することが求められています。
裁量労働制
裁量労働制は、実際の労働時間に関わらず、一定時間働いたものとみなす制度です。労働時間の算定方法の特例として設けられ、管理職にも適用可能です。
裁量労働制を適用する場合は、労使委員会での決議や労働基準監督署への届出が必要となり、適用要件や手続きを厳格に遵守する必要があります。また、裁量労働制が適用されても、深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務は残るため、勤怠時間の管理は継続して必要となります。
裁量労働制の導入により、管理職の働き方の自由度は高まりますが、適切な勤怠管理と健康管理の体制を整備することで、制度の効果的な運用が可能となります。企業は制度の目的を理解し、労働者の健康と生産性の両立を図る運用を心がけることが重要です。
管理職の勤怠管理における実務上の課題
管理職の勤怠管理において、企業の現場ではさまざまな課題に直面しています。法的な要求と実際の業務運営の間にはギャップがあり、効率的で実効性のある勤怠管理体制を構築するには多くの工夫が必要です。
管理職自身の勤怠管理に対する意識の低さ
多くの管理職は、「自分は時間管理の対象外」という認識を持っており、正確な勤務時間の記録を怠りがちです。また、部下よりも早く出社し、遅く退社する文化が根強く、長時間労働が常態化していても問題視されない企業風土も存在します。
業務特性による記録の困難さ
管理職は、会議への参加や外出先での業務、在宅勤務など、勤務場所や時間が不規則になりやすく、正確な勤務時間の把握が困難になるケースが多く見られます。特に、複数の拠点を移動しながら業務を行う管理職の場合は、どこで何時間働いたのかを正確に記録することが実務上の負担となっています。
給与計算との連携が複雑
管理職は、管理職手当や固定残業代、裁量労働制など、多様な給与体系が適用されているため、勤怠データと給与計算システムの連携が複雑になりがちです。また、管理監督者に該当するかどうかの判定が曖昧なケースでは、残業代の計算方法自体が不明確になり、給与計算担当者の負担が増大しています。
承認フローが不明確
管理職の勤怠を誰が承認するのか、どのような基準で承認を行うのかを明確にしないと、形式的な承認に終わってしまい、勤怠管理の実効性が失われてしまいます。特に、上級管理職の勤怠承認は、組織の階層構造と業務実態を考慮した適切な仕組みづくりが求められます。
管理職の勤怠管理を効率化するには?
上記の課題を解決し、管理職の勤怠管理を効率化するためには、勤怠管理システムの活用が有効な解決策となります。勤怠管理システムの導入により、手作業による記録や集計の負担を軽減し、正確性と効率性を同時に実現できます。ここでは、勤怠管理システム導入による具体的なメリットを解説します。
法的リスクを軽減できる
勤怠管理システムの導入により、管理職の労働時間を客観的かつ正確に記録でき、未払い残業代請求や労働基準監督署の調査に対する証拠能力が大幅に向上します。タイムカードや自己申告による勤怠記録では、改ざんの疑いを持たれるリスクがありますが、勤怠管理システムによる客観的な記録は法的な証拠として高い信頼性を持ちます。
また、労働時間の上限規制や健康管理義務への対応も自動化でき、法令遵守の体制を効率的に構築できます。システム内で管理監督者の設定を行うことで、残業代計算の対象者を明確に区別し、計算ミスによる法的リスクも回避できます。
さらに、長時間労働者の自動抽出機能により、医師による面接指導の対象者を迅速に特定でき、健康管理義務の履行も確実に行えます。
柔軟な勤怠管理を行える
勤怠管理システムでは、管理職の多様な働き方に対応した柔軟な設定が可能です。外出先からのスマートフォンでの打刻や、在宅勤務時のPC打刻、複数拠点での勤務記録など、管理職の業務実態に合わせた勤怠記録方法を選択できます。
また、裁量労働制や固定残業代制度にも対応した設定により、各管理職の雇用条件に応じた適切な勤怠管理を実現できます。会議やプロジェクト単位での工数管理機能を活用すれば、管理職の業務配分や生産性の分析も可能になり、より効果的な業務管理につながります。
さらに、休暇申請や各種届出のワークフロー機能により、管理職特有の承認プロセスを効率化し、事務作業の負担を軽減できます。勤怠管理システムの柔軟性により、企業の組織変更や制度改定にも迅速に対応でき、継続的な勤怠管理の改善が可能となります。
給与計算システムとの連携による業務効率化を図れる
勤怠管理システムと給与計算システムを連携することで、管理職手当や固定残業代、裁量労働制など、多様な給与制度に対応でき、計算ミスを防止し、給与計算担当者の負担を大幅に軽減できます。
また、勤怠データの自動転送により、手作業によるデータ入力が不要となり、作業時間の短縮と正確性の向上を同時に実現できます。管理監督者と一般管理職の区別も自動的に行われるため、残業代の計算対象者を間違える心配もありません。
さらに、固定残業代の超過時間は自動的に追加計算が行われ、適正な給与支払いを確保できます。年末調整や社会保険の手続きに必要なデータも正確に集計され、人事労務業務全体の効率化が図れます。
組織全体のコンプライアンスが強化される
勤怠管理システムの導入により、管理職から一般従業員まで統一された勤怠管理基準を適用でき、組織全体のコンプライアンス意識を向上させられます。
管理職が率先して適切な勤怠管理を行うことで、部下に対する指導力も向上し、労務管理の徹底が組織全体に浸透します。システムの監査機能やレポート機能を活用すれば、勤怠管理の状況を定期的にチェックでき、問題の早期発見と改善につながります。
また、労働基準監督署の調査や監査法人による監査にも迅速に対応でき、企業の信頼性向上に寄与します。各種法令改正への対応もシステムアップデートにより自動化でき、常に最新の法的要求に準拠した勤怠管理を維持できます。
組織運営や人事戦略を改善できる
勤怠管理システムに蓄積された管理職の勤務データを分析することで、組織運営や人事戦略の改善に活用できます。管理職の労働時間や業務パターンを分析すれば、適正な人員配置や業務分担の見直しが可能になり、組織全体の生産性向上につながります。
また、管理職の健康状態や働き方の傾向を把握することで、メンタルヘルス対策や働き方改革の施策を効果的に展開できます。長時間労働の傾向がある管理職を早期に特定し、業務負荷の軽減や人員増強などの対策を講じることで、離職防止や労災リスクの回避も可能になります。
【役職別】勤怠管理システムによる管理職の勤怠管理・運用方法
管理職の勤怠管理は、役職によって業務内容や裁量の度合いが大きく異なるため、それぞれの特性に応じた適切な運用方法を設計することが重要です。一律の管理方法では実態に即した効果的な勤怠管理を行うことができず、かえって業務効率の低下や形式的な運用に陥る可能性があります。以下では、部長・課長・マネージャーの各クラスに分けて、勤怠管理システムを活用した具体的な運用方法を解説します。
部長クラス
部長クラスは、企業の経営方針の決定や全社的なマネジメントを担うことが多く、労働基準法上の管理監督者に該当する可能性が高い役職です。そのため、裁量労働制の適用や管理監督者としての取り扱いを受けるケースが一般的です。
勤怠管理システムでは、労働時間入力の免除設定を行い、健康管理の観点から必要最小限の時間把握に留めることが効果的です。具体的には、出退勤時刻の記録は行うものの、残業時間の詳細な管理は不要とし、月間の総労働時間や深夜労働時間のみを把握する設定が適しています。
勤怠承認は人事部長や役員が行い、承認プロセスを簡略化することで事務負担を軽減します。また、長時間労働が続く場合には自動的にアラートが発生し、産業医や人事部門への報告が行われる仕組みを構築することで、健康管理義務を確実に履行できます。
加えて、勤務状況を定期的にモニタリングし、組織全体の働き方改革の推進役としての役割を果たせるよう支援する体制を整備することで、効果的な勤怠管理を実現できます。
課長クラス
課長クラスは、部下の勤怠管理や業務指示の責任を担い、多くの場合で労働時間管理が必要となる役職です。管理監督者に該当しないケースが多いため、通常の従業員と同様の勤怠管理を基本としながら、管理職としての特性を考慮した運用を行います。
勤怠管理システムでは、通常の出退勤打刻に加えて、固定残業代制度が適用される場合の超過時間把握機能を活用し、適正な給与計算を確保します。また、課長クラスは部下の勤怠承認権限を持つことが多いため、自身の勤怠記録と部下の勤怠承認業務を効率的に行えるワークフロー設定がポイントとなります。
承認権限の設定では、課長クラスに対して担当部署の全従業員の勤怠承認権限を付与し、承認期限や承認基準を明確に定めることで、適切な労務管理を支援します。一方、課長クラス自身の勤怠は、上位の管理職や人事部門が承認を行い、客観的なチェック体制を維持します。また、課長クラスは会議や外出が多いため、スマートフォンでの打刻や位置情報を活用した勤務場所の記録機能を積極的に活用し、正確な勤務実態の把握を行います。
さらに、部下の労働時間管理責任を果たすため、部下の残業時間や有給休暇取得状況をリアルタイムで確認できるダッシュボード機能を提供し、適切な業務配分や休暇取得の促進を支援することが効果的です。
マネージャークラス
マネージャークラスは、プロジェクトやチーム単位での業務管理を担当し、業務内容によって労働時間管理の要件が異なる特徴があります。裁量労働制が適用される場合には勤務時間入力が不要となることもありますが、残業時間や休暇取得状況の報告は継続して必要となります。
勤怠管理システムでは、マネージャーの雇用条件や適用制度に応じて、柔軟な設定変更が可能な仕組みを構築することが重要です。プロジェクト管理機能を活用すれば、複数のプロジェクトにまたがる業務時間の配分や工数管理も効率的に行え、より詳細な業務分析が可能となります。
また、在宅勤務やフレックスタイム制度の活用が多いため、多様な働き方に対応した勤怠記録方法を提供するとよいでしょう。ワークライフバランスの向上と業務効率の最適化を同時に実現する運用を目指すことが重要です。
まとめ
管理職の勤怠管理は、法的リスクの回避、健康管理、組織運営の観点から極めて重要な取り組みです。管理職に関わる法的な枠組みを正確に理解し、実態に応じた適切な勤怠管理を行いましょう。
法的要求と業務効率性のバランスを取りながら、最適な勤怠管理システムを選択・導入することで、管理職の働き方改革と組織全体の生産性向上につなげられます。
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勤怠管理システムは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
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