安否確認訓練の実施方法と成功のコツ!部署・拠点別のシナリオ例も紹介
地震や台風などの自然災害が頻発する中、企業における安否確認訓練の重要性が高まっています。安否確認訓練は、災害時に従業員の安全を迅速に把握し、事業継続につなげるための重要な取り組みです。適切な準備と実施により、実際の災害時にスムーズな初動対応が可能になります。
本記事では、安否確認訓練の実施手順や部署別のシナリオ例、成功のコツなどを詳しく解説します。実務に役立つ情報をお届けするので、ぜひ参考にしてください。
安否確認訓練とは?
安否確認訓練とは、地震や台風などの災害を想定して、従業員の安全状況を確認する手順を事前に練習する活動です。実際の災害が起きた際に、迅速かつ確実に従業員の安全を把握できるよう、事前に手順や連絡方法を確認します。
【安否確認訓練の目的】
- 安否確認システムや連絡手段の操作に慣れることで、災害時の混乱を最小限に抑える
- 管理者が安否情報を迅速に収集・集計し、必要な初動対応を判断できるスキルを身につける
- 従業員1人ひとりが災害時の行動を理解し、適切に対応できるよう意識を高める
安否確認訓練は、企業の災害対策として欠かせない取り組みであり、BCP(事業継続計画)の重要な要素でもあります。
安否確認訓練が求められる理由
近年、日本では大規模な自然災害が相次いでおり、企業の災害対策への関心が高まっています。東日本大震災以降、BCPの策定や見直しが進む中で、従業員の安否確認体制の重要性が再認識されています。
また、働き方の多様化により、テレワークや外出先での業務が増えており、従来の安否確認方法では対応が困難になっています。さまざまな勤務形態に応じた確認手段を整備し、実際に機能するかを確認する必要があります。
法的な観点からも、労働安全衛生法では企業に従業員の安全配慮義務が課されており、災害時の対応体制整備は企業の責務です。また、株主や取引先からも、災害時の事業継続能力について説明を求められるケースが増えています。
安否確認訓練を実施しないリスク
安否確認訓練を実施せずにいると、実際の災害時にさまざまな問題が発生する可能性があります。最も深刻なのは、従業員の安否が確認できず、救助や支援が遅れることです。連絡手段や手順が曖昧だと、重要な初動対応が滞り、被害が拡大する恐れがあります。
事業継続の面でも大きなリスクがあります。誰が出社可能かわからなければ、業務の再開判断ができず、復旧が大幅に遅れます。取引先への報告や顧客対応も滞り、信頼失墜や契約解除につながる可能性があります。
さらに、企業イメージの悪化も懸念されます。災害時に従業員の安全確認が適切に行えなかった場合、企業の危機管理能力に疑問を持たれ、採用活動や事業展開に悪影響を及ぼします。株主や投資家からの評価低下により、企業価値の下落を招く可能性もあります。
安否確認訓練の実施方法と手順
安否確認訓練は、実施前の計画から実施当日、訓練後の振り返りまで、段階的に進めることで効果的になります。ここでは、実際の運用手順を説明します。
①目的・対象を明確にする
安否確認訓練を行う目的を明確にし、対象範囲を決定することから始めます。目的によって訓練の内容や評価基準が変わるため、最初にしっかりと設定することが重要です。
【安否確認訓練の目的例】
- 安否確認システムの操作確認
- BCP訓練の一環として実施
- 初動対応のスピード向上
対象範囲は、全社一律で実施する場合もあれば、特定部門やシフト勤務者など限定的に行う場合もあります。初回は小規模から始めて、段階的に拡大していくのもよい方法です。
②想定シナリオを設定する
安否確認訓練の目的・対象を定めたら、訓練で想定する災害シナリオを設定します。現実的で具体的なシナリオにすることで、より実践的な訓練になります。
【想定シナリオ例】
- 業務時間中に震度6弱の地震が発生
- 深夜に台風警報が発令され翌日の出社判断が必要
- 火災により事業所からの緊急避難が必要
③訓練の内容と流れを設計する
安否確認訓練の具体的な進行フローや連絡方法、回答内容の項目などを決定します。通知方法は、メールやチャットツール、スマホアプリなど、普段使用している業務連絡手段を活用すると、従業員にとってわかりやすいです。また、複数の手段を組み合わせることで、より確実な連絡が可能になります。
回答内容は、「無事」「負傷」「連絡不能」などの選択肢を設定し、必要に応じて詳細情報の入力欄も用意します。時間設定も重要で、30分以内など現実的な範囲で回答期限を設けます。
加えて、以下のように通知文も事前に準備しておきます。
| これは訓練です。〇月〇日〇時に地震が発生した想定で、安否を報告してください。回答期限は〇時〇分までです。 |
|---|
④訓練当日に安否確認を実施する
訓練当日は、あらかじめ決めた時間に通知を一斉配信してスタートします。開始の合図を明確に示し、従業員が混乱しないよう配慮します。
【実施の流れ】
- 開始の合図(メールやチャット通知)を送信
- 従業員は各自、安否確認システムや所定の方法で回答
- 指定時間内の回答状況を随時モニタリング
訓練中は、回答状況をリアルタイムで確認し、必要に応じて未回答者へのリマインドを行います。自動再通知機能がある場合は活用し、ない場合は上長からの個別連絡なども検討します。
⑤集計と一次対応のシミュレーションを行う
回答期限になったら、回答状況を集計し、未回答者・負傷者の有無を確認します。この結果をもとに、災害時の初動対応をシミュレートします。
【集計作業】
- 回答率・応答時間の集計
- 対応が必要な社員のリストアップ
- 各部門ごとの状況を上長に報告・共有
ここまでの対応を「実災害だったらどう動くか?」の視点で確認することが重要です。集計結果に基づいて、次にとるべき行動を判断する練習も行います。
⑥訓練後の振り返りと改善点の整理を行う
訓練終了後には、関係者で結果を振り返り、課題や改善点を明確にして次回につなげます。客観的なデータと参加者の主観的な感想の両方を収集することで、多角的な評価が可能になります。
【振り返り観点】
- 回答漏れが多かった原因の分析
- 通知の時間帯・文面が適切だったかの評価
- アンケートやヒアリングで参加者の声を収集
訓練結果をレポートにまとめ、社内で共有することで、継続的な改善が可能になります。改善点は次回の訓練計画に反映し、PDCAサイクルを回していきます。
【部署・拠点別】安否確認訓練のシナリオ例
安否確認訓練は、全社一律ではなく、部署や拠点の特性に応じてシナリオを変えることで、実効性が高まります。ここでは、業務内容や勤務形態の違いを考慮したシナリオ例を紹介します。
本社勤務部門向け
本社勤務部門向けの安否確認訓練では、通常業務中の災害を想定し、デスクワーク中心の従業員がどれだけ素早く対応できるかを測定します。
【状況例】
- 平日午前10時に震度6弱の地震が発生
【目的】
- オフィス勤務社員が迅速に安否を報告できるかを確認する
【シナリオ要点】
- 訓練開始時に「地震発生を想定」と社内に一斉通知する
- 社員は安否確認システムにアクセスし、「無事」「負傷」「安否不明」などを選択する
- 本部では30分以内に全員の安否を集計し、部門別に集計結果を報告する
【ポイント】
- PC・スマホ両方からの応答をテストすることで、どちらの端末でもスムーズに対応できるかを確認する
- 階層別(課長以上・一般社員)の回答速度の差を評価し、管理職の率先垂範効果を測定する
営業・外出が多い部門向け
営業・外出が多い部門向けの安否確認訓練では、移動中や客先訪問中など、オフィス以外の場所での災害対応力を評価します。
【状況例】
- 営業中の外出先で突発的に大規模停電が発生
【目的】
- 社外にいる社員が適切に対応・安否報告できるかを確認する
【シナリオ要点】
- 外出中を想定して、業務用スマホへの安否確認通知を実施する
- GPSを使用した位置情報付きの回答を求める
- 上長や管理部門は、回収した安否と位置情報から、移動指示の要否を判断する
【ポイント】
- 電波状況やバッテリー切れなど、現実的な障害を加味した設定にする
- モバイル端末を使う訓練の機会として位置づけ、外出先での操作に慣れてもらう
工場・製造現場向け
工場・製造現場向けの安否確認訓練では、製造業特有の安全リスクを考慮し、避難と安否確認を組み合わせた訓練を実施します。
【状況例】
- 勤務時間中に火災が発生し、工場敷地外への一時避難を要請
【目的】
- 現場従業員が迅速に避難し、その後安否を報告できる体制を確認する
【シナリオ要点】
- 訓練開始と同時に避難指示を出し、従業員は所定の場所へ移動する
- 安否確認は、避難後に紙またはタブレットで実施する(ネット接続が困難な想定)
- 集計結果を班長・リーダーが管理部門に報告する
【ポイント】
- システム未導入の環境でも対応できる訓練内容にすることで、通信インフラが使えない状況への備えを確認する
- 身体的リスクや障害者対応なども組み込むと、よりリアルな訓練になる
店舗勤務(シフト制)部門向け
店舗勤務(シフト制)部門向けの安否確認訓練では、24時間営業や交代制勤務の特性を考慮し、時間差での対応力を評価します。
【状況例】
- 深夜帯に台風接近、翌朝の営業判断が必要
【目的】
- シフト勤務者やパート従業員を含めた安否確認体制をテストする
【シナリオ要点】
- 夜間に自動送信される安否確認メッセージを、起床後に確認・回答する想定
- 回答状況によって、出勤可否や応援依頼の判断を管理者が行う
- 未回答者には再送信や電話フォローを行う流れを訓練する
【ポイント】
- シフト制ならではのタイムラグ対応を評価し、勤務時間外での連絡手段を確認する
- パート・アルバイトへの通知・回収手段もチェックし、雇用形態に関わらず確実に連絡が取れるかを検証する
テレワーク勤務者向け
テレワーク勤務者向けの安否確認訓練では、テレワークが増加する中で、自宅からでもスムーズに連絡が取れる体制を構築します。
【状況例】
- 午前9時、自宅で業務開始直後に地震が発生
【目的】
- 在宅勤務中でも安否確認が迅速に行えるか確認する
【シナリオ要点】
- 通常の業務連絡ツール(チャット・メール)を通じて訓練開始を通知する
- 社員は安否報告とともに、通信・電力の状況も報告する
- 回収後、状況に応じて上長が業務継続の可否を判断する
【ポイント】
- 自宅の通信環境や停電への備えも確認し、在宅勤務継続の可否を判断する材料を収集する
- テレワーク者の孤立対策にもつなげ、心理的なサポート体制も検証する
安否確認訓練を成功させるコツと社内定着のポイント
安否確認訓練を実効性のあるものにするには、形だけで終わらせない工夫と、社員にとって意味のある訓練として社内に定着させる仕組みが必要です。ここでは、実際に効果が出る訓練を実施するための具体的なコツと、継続的に運用していくためのポイントを紹介します。
シナリオにバリエーションを持たせる
毎回同じパターンでは社員が「ただの形式」と感じてしまい、訓練の効果が薄れてしまいます。そのため、想定災害や発生時刻、対応の流れにバリエーションを持たせることが重要です。
災害の種類を変えることで、それぞれの特性に応じた対応を学べます。地震なら即座の安全確保、台風なら事前準備、火災なら迅速な避難といった具合に、災害ごとの行動パターンを身につけられるでしょう。
時間帯についても、就業中、深夜、休日など、さまざまなタイミングで実施することで、いつ災害が起きても対応できる体制を構築できます。さらに、「通信障害で回答できない場合の対応」など、現実的な課題を加えることで、より実践的な訓練になります。
経営層や管理職を巻き込む
担当者任せではなく、組織全体として訓練を重視する雰囲気づくりが重要です。特に管理職の関与が訓練の本気度を左右し、従業員の参加意識に大きく影響します。
経営層からの訓練実施メッセージの発信により、訓練の重要性を全社に伝えられます。また、部門長が回答促進・未回答者フォローを行う体制を構築することで、現場レベルでの実効性が高まります。
訓練結果を経営会議などで共有し、全社的に改善意識を持たせることも効果的です。単なる報告ではなく、課題と改善策を議論することで、継続的な向上につながります。
防災意識を高めるコンテンツを提供する
社員が他人事にしないための防災教育との連携が必要です。訓練と一緒に防災意識を高めるコンテンツを提供すると、訓練の意味や重要性が伝わりやすくなります。
防災週間や社内イベントと連動して訓練を実施することで、防災への関心が高まっているタイミングを活用できます。自宅の備蓄チェックリスト配布や非常時の行動マニュアル共有により、個人レベルでの防災意識も向上するでしょう。
また、実際の被災経験者による社内セミナー開催などにより、災害の現実味を感じてもらうことも効果的です。体験談を聞くことで、訓練の重要性を実感できます。
定期化とルール化を図る
安否確認訓練を「やって当たり前」にすることが重要です。訓練を単発で終わらせず、継続的な活動として組み込むことで、自然と社内文化として根付いていきます。
年2〜3回などの定期的な訓練スケジュールを策定し、予測可能性を持たせることで、従業員も心構えができます。人事や総務の年間行事に組み込み、ルーティン化することで、担当者の負担も軽減されます。
また、新入社員研修で安否確認訓練を必ず体験させることで、入社時から防災意識を植え付けられます。継続的な人材育成の一環として位置づけることが重要です。
安否確認システムを導入・活用する
回答方法が複雑だったり、通知に気づきにくかったりすると、訓練の参加率が下がってしまいます。従業員の負担を減らす仕組みを作るために、安否確認システムの導入・活用がおすすめです。
安否確認システムは、ワンクリック回答やGPS連携、自動集計機能などにより、従業員の負担軽減と管理者の業務効率化を両立できます。また、訓練機能を活用することで、定期的な訓練実施が容易になり、結果の分析や改善点の把握も効率的に行えます。
まとめ
安否確認訓練は、災害時に従業員の安全を守り、事業継続を実現するための重要な取り組みです。特に重要なのは、訓練を形骸化させないことです。バリエーション豊かなシナリオ、経営層の関与、定期的な実施により、実効性のある訓練を継続しましょう。
また、安否確認システムを導入することで、従業員の負担軽減と管理者の業務効率化を両立し、より実践的な訓練環境を構築できます。災害はいつ起こるかわかりません。日頃の備えと訓練により、いざという時に従業員の安全を守り、事業を継続できる体制を整えることが、企業の重要な責務といえるでしょう。
自社に最適な安否確認システムを見つけるには?
安否確認システムは、製品によって備わっている機能やサービスの幅が異なります。そのため、自社の導入目的や効果を考慮して選ぶことが大切です。
自社に最適な安否確認システムを見つける際には「FitGap」をご利用ください。FitGapは、自社にぴったりの製品を選ぶための無料診断サービスです。簡単な質問に答えていくだけで、自社に必要なシステム要件が整理でき、各製品の料金や強み、注意点、市場シェアなどを知ることができます。
自社にぴったりの安否確認システムを選ぶために、ぜひFitGapをご利用ください。
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