クリニックでは早番、遅番、夜勤など複数のシフトパターンが存在し、手作業での管理は非常に手間がかかります。医師の外来診療時間と看護師の勤務時間が異なるケースも多く、職種ごとに異なる勤務パターンを把握する必要があります。紙のシフト表では変更があった際の修正や共有に時間がかかり、スタッフ間での情報伝達ミスも発生しやすくなります。急な欠勤による代理対応の記録も複雑になり、正確な労働時間の把握が困難です。

クリニックの多くは1カ月単位の変形労働時間制を採用していますが、手計算での労働時間集計は複雑で間違いが生じやすい状況です。週ごとに診療時間が異なる場合や、月末に診療日数を調整する場合など、労働時間の上限を正確に計算する必要があります。法定労働時間を超過していないか確認する作業も煩雑で、管理者の負担が大きくなります。計算ミスがあれば労働基準法違反につながるリスクもあります。

診療時間終了後のカルテ記入や清掃、翌日の準備などで実際の退勤時刻が遅くなるケースが多くあります。タイムカードを先に打刻してから残業する習慣があると、実労働時間が正確に記録されません。医師の時間外労働の上限規制に対応するためには、正確な残業時間の把握が不可欠です。残業申請と実際の勤務時間に乖離がある場合、適切な労務管理ができず法令違反のリスクが高まります。

紙の台帳やファイルで有給休暇を管理していると、各スタッフの残日数や取得率を即座に確認できません。労働基準法で義務付けられている年5日の有給休暇取得を確実に実施するためには、取得状況の可視化が必要です。スタッフから残日数を問い合わせられた際に、台帳を探して計算する手間もかかります。取得期限が近づいているスタッフへの声かけも漏れやすく、適切な労務管理が難しくなります。

クリニック向けの勤怠管理システムは、変形労働時間制や宿日直勤務など医療機関特有の働き方に標準で対応しています。医師の当直勤務や待機時間、オンコール対応など、一般企業とは異なる勤務パターンを正確に記録できる設計です。診療科ごとに異なる勤務時間帯の設定も柔軟に行えます。2024年4月から適用される医師の時間外労働上限規制に対応した管理機能も搭載されています。

職種別、スキル別にスタッフを分類し、必要な人員配置を考慮したシフト作成ができます。看護師の夜勤回数制限や連続勤務日数の上限など、労働条件を満たしたシフト組みをシステムが支援します。急な欠勤が発生した際には、代理可能なスタッフの候補を表示する機能もあります。作成したシフトはスタッフのスマートフォンから確認でき、情報共有がスムーズです。

多くのクリニック向け勤怠管理システムは、主要な給与計算ソフトとデータ連携する機能を備えています。勤怠データを自動で給与計算ソフトに取り込めるため、手入力の手間が省けます。深夜割増や休日割増など、時間帯や曜日に応じた賃金計算に必要なデータも正確に出力されます。連携により入力ミスが減り、給与計算業務の負担が大幅に軽減されます。

クラウド型は提供会社のサーバー上でシステムが動作し、利用者は手持ちの端末からアクセスして利用します。初期費用を抑えて導入でき、システムの更新やメンテナンスは提供会社が行うため管理負担が少ない点が特徴です。スタッフは自宅や外出先からもスマートフォンやパソコンでシフト確認や勤怠打刻ができます。複数のクリニックを運営している場合でも、各拠点の勤怠データを一元管理できる利点があります。

オンプレミス型はクリニック内のサーバーにシステムを設置して運用する形態です。院内のネットワーク環境内で完結するため、患者情報など他の医療システムとの連携がしやすい特徴があります。カスタマイズの自由度が高く、クリニック独自の運用ルールに合わせた設定が可能です。一方で初期導入費用が高額になりやすく、システムの保守管理を自院で行う必要があります。

勤怠管理システムは出退勤の記録方法によっても分類されます。スマートフォンやタブレット端末から打刻するタイプは、設置場所を選ばず導入しやすい利点があります。ICカードをかざして打刻するタイプは、スタッフ証と兼用できて便利です。生体認証を使った打刻方式では、指紋や静脈パターンで本人確認を行い、不正打刻を防止できます。パソコンからの打刻に対応したタイプもあり、事務スタッフなど常にパソコンで作業する職種に適しています。

勤怠管理システムを導入する前に、何を改善したいのか目的をはっきりさせることが重要です。労働時間管理の正確性向上なのか、シフト作成業務の負担軽減なのか、優先順位をつけて整理します。目的が明確であれば、システム選定の際に必要な機能を絞り込みやすくなります。一例として、医師の時間外労働管理を最優先課題とするなら、該当する機能が充実したシステムを選ぶべきです。導入後に効果を測定する指標も事前に設定しておくと、成功したかどうかを客観的に評価できます。

勤怠管理システムは毎日スタッフが使うものなので、導入プロジェクトに現場の意見を反映させることが大切です。各部署から代表者を選び、システム選定の段階から参加してもらうとよいでしょう。実際に、現場スタッフが使いやすいと感じるシステムを選ぶことで、導入後の定着率が高まります。スタッフからの不安や疑問には丁寧に答え、システム導入のメリットを理解してもらう努力が必要です。現場の声を聞きながら進めることで、抵抗感を減らし、スムーズな導入が実現できます。

いきなり全機能を本格稼働させるのではなく、段階的に導入することでリスクを軽減できます。たとえば、まずは打刻機能だけを導入し、スタッフが慣れてからシフト管理機能を追加するという方法があります。一部の部署で先行してテスト運用を行い、問題点を洗い出してから全体展開する進め方も有効です。テスト期間中は既存の方法と並行して運用し、データの正確性を確認します。スタッフからのフィードバックを集めて設定を調整することで、本格稼働時にトラブルを最小限に抑えられます。

システムを導入しても、スタッフが使い方を理解していなければ効果は得られません。実際に、全スタッフを対象とした操作研修を実施し、基本的な使い方を習得してもらうことが重要です。年配のスタッフやIT機器に不慣れなスタッフには、個別のフォローアップ研修を行うとよいでしょう。いつでも参照できる操作マニュアルを作成し、院内で共有しておくことも大切です。よくある質問と回答をまとめたFAQも用意しておくと、スタッフが自分で問題を解決しやすくなります。

システムを導入する際に、提供会社が初期設定を支援してくれるサービスです。クリニックの勤務体系や休暇制度、組織構成などをヒアリングし、システムに設定してくれます。たとえば、変形労働時間制の設定や、職種別の勤務パターン登録、シフトのテンプレート作成などを代行します。スタッフ情報の登録方法や、給与計算ソフトとの連携設定についてもアドバイスを受けられます。専門知識が必要な設定を任せられるため、スムーズに運用開始できます。

システムの使い方をスタッフが習得できるよう、提供会社が研修を実施するサポートです。一例として、管理者向けには勤怠データの確認方法やシフト作成機能の使い方を、一般スタッフ向けには打刻方法や休暇申請の手順を教えます。対面での集合研修だけでなく、オンラインでの研修に対応している提供会社もあります。研修用の資料や操作マニュアルを提供してもらえることもあります。定期的にフォローアップ研修を実施し、スタッフの習熟度を高めるサポートもあります。

運用中に分からないことやトラブルが発生した際に、提供会社に問い合わせできるサポートです。電話やメール、チャットなど、複数の方法で問い合わせに対応している場合が多くあります。具体的には、操作方法の質問や、エラーが表示された際の対処法、設定変更の手順などを教えてもらえます。緊急性の高いトラブルには優先的に対応する体制を整えている提供会社もあります。問い合わせ内容はナレッジベース(知識データベース)として蓄積され、今後の改善に活かされます。

法改正や新機能の追加に対応するため、提供会社がシステムを定期的に更新するサポートです。労働基準法の改正や、医師の労働時間規制の変更があった場合、システムが自動で対応します。実際に、クラウド型のシステムではアップデートが自動で適用され、クリニック側で作業する必要はありません。新機能が追加された際には、リリースノートで内容を確認できます。セキュリティ対策の強化も定期的に行われ、安全にシステムを利用できる環境が維持されます。