自治体では正規職員、再任用職員、会計年度任用職員など雇用形態が多岐にわたります。部署ごとに勤務時間が異なり、窓口業務の早番や遅番、夜間の宿直勤務など勤務パターンも複雑です。手作業での管理では集計ミスが発生しやすく、給与計算に影響を及ぼす可能性があります。雇用形態ごとに異なる勤務ルールを正確に適用することが困難になっています。

自治体職員の長時間労働が社会的な問題となっており、時間外勤務の正確な把握が求められています。手書きの勤務記録では申告漏れや記録の不正確さが生じやすく、実態を把握できません。議会対応や災害対応などで突発的な残業が発生することも多く、リアルタイムでの勤務状況確認が難しい状況です。上限規制への対応や健康管理の観点からも、時間外勤務の適切な管理が課題となっています。

働き方改革関連法により、年次有給休暇の取得義務化が求められています。しかし自治体では職員ごとの休暇取得状況を紙の台帳で管理しているケースが多く、取得日数の把握に時間がかかります。取得期限が近づいている職員を個別に確認する作業も煩雑です。休暇の種類も年次有給休暇のほか、夏季休暇や特別休暇など多様であり、それぞれの残日数管理が複雑になっています。

労働基準法の改正や自治体独自の条例改正により、勤務制度が頻繁に変更されます。育児や介護に関する休暇制度の拡充、フレックスタイム制度の導入など、新しい勤務制度への対応が必要です。手作業やエクセル（表計算ソフト）での管理では、制度変更のたびに計算式や台帳の修正が必要となり、対応に時間がかかります。制度変更の周知徹底も課題となり、職員への説明や運用の統一が困難になっています。

自治体向けのシステムは、地方公務員法や各自治体の条例に基づく勤務制度に対応しています。職員の身分や職種によって異なる勤務時間の設定が可能です。具体的には、フレックスタイム制度や変形労働時間制など、自治体で採用されている多様な勤務形態を管理できます。再任用職員の短時間勤務や週3日勤務といった特殊な勤務パターンにも柔軟に対応できる設計になっています。

自治体には年次有給休暇以外にも、病気休暇や特別休暇など多くの休暇制度が存在します。休暇の種類ごとに取得条件や付与日数が異なり、有給か無給かの区分も複雑です。たとえば夏季休暇や結婚休暇、忌引休暇、公務災害による休暇など、それぞれ異なる管理ルールに対応できます。半日休暇や時間単位での休暇取得にも対応しており、細かな単位での残日数管理が可能です。条例に定められた休暇制度を正確に運用できる機能を備えています。

自治体では既存の給与システムや人事システムが稼働しているケースが多く、連携機能が重視されます。勤怠データを自動的に給与計算システムへ受け渡すことで、二重入力の手間を省けます。一例として、時間外勤務手当や休日勤務手当の計算に必要なデータを正確に引き渡せる仕組みになっています。人事異動や組織改編があった際にも、マスタ情報を連携して最新の所属情報で勤怠管理ができます。自治体で導入されている総合行政システムとの親和性が高い設計になっています。

自治体向けの勤怠管理システムは、設置場所によってオンプレミス型とクラウド型に分けられます。オンプレミス型は自治体が所有するサーバー室に機器を設置して運用する方式です。庁内ネットワーク内で完結するため、既存のセキュリティ方針に沿った運用がしやすくなります。データを外部に出さないため、情報管理の観点から安心感があります。その一方でクラウド型は、インターネット経由で提供事業者のサーバーを利用する方式です。初期費用を抑えられ、サーバーの保守管理を提供事業者に任せられます。システムの更新も自動的に行われるため、常に最新の機能を利用できます。

勤怠管理に特化した専門型と、人事給与機能を含む統合型があります。専門型は出退勤管理や休暇管理など勤怠に関する機能に絞り込まれています。既に給与システムを導入している自治体が、勤怠管理だけを効率化したい場合に適しています。導入コストを抑えつつ必要な機能を実現できます。加えて統合型は、勤怠管理に加えて人事情報管理や給与計算、社会保険手続きなどを一つのシステムで行えます。データを一元管理できるため、情報の整合性を保ちやすくなります。新規にシステムを構築する場合や、既存システムの全面更新時に検討されます。

利用する端末や場所によって、据え置き型とモバイル型に分類できます。据え置き型は庁舎内に設置されたタイムレコーダーやパソコンから打刻する方式です。出勤時と退勤時に決まった場所で操作を行います。不正打刻を防ぎやすく、確実な記録が残せます。また、モバイル型はスマートフォンやタブレット端末から打刻できる方式です。出先機関や現場作業が多い職員の勤怠管理に適しています。位置情報機能と連携すれば、打刻した場所も記録できます。在宅勤務やテレワークを導入している自治体でも活用されています。

システム導入前に、何を目的とし何を実現したいのかを明確にすることが重要です。働き方改革の推進、業務効率化、法令遵守など、導入の目的を関係者で共有します。期待する効果を具体的に設定し、導入後の評価基準とします。たとえば月末の集計作業時間の削減や、時間外勤務の削減目標などを数値化して設定できます。目的が明確になることで、システム選定時の判断基準も明確になり、適切な選択につながります。職員の理解と協力も得やすくなります。

システム導入は人事部門だけでなく、全庁的なプロジェクトとして取り組むことが成功の鍵です。首長や幹部職員の理解と支援を得て、組織全体で推進する体制を構築します。プロジェクトチームには人事部門のほか、情報システム部門や各部署の代表者を含めます。一例として各部署の実務担当者をメンバーに加えることで、現場の課題や要望を反映できます。定期的な会議を開催し、進捗状況の共有や課題の早期解決を図ります。全庁的な協力体制により、スムーズな導入と定着が実現します。

システムに求める機能や要件を定義する際、現場職員の意見を十分に聞くことが重要です。実際に勤怠管理業務を行っている担当者や、システムを利用する職員の声を集めます。現状の業務フローを詳細に分析し、どこに課題があるのかを把握します。具体的には各部署へのヒアリングやアンケート調査を実施し、多様なニーズを収集します。特殊な勤務形態を持つ部署の要望も漏れなく把握する必要があります。現場の実態に即したシステムになることで、導入後の定着率が高まります。

本格運用前に十分なテスト期間を設けることが、トラブル回避につながります。システムの動作確認だけでなく、既存システムとの連携テストも入念に実施します。実際の業務を想定したシナリオでテストを行い、想定外の問題を事前に発見します。たとえば給与計算に必要なデータが正確に連携されるか、さまざまなパターンで検証します。一部の部署で試行運用を行い、実務での使い勝手を確認することも有効です。テスト段階で発見された問題を解決してから本格運用を開始することで、混乱を防げます。

システム導入時には、要件定義から稼働開始までを支援するサービスが提供されます。自治体の勤務制度や業務フローをヒアリングし、最適なシステム設定を提案します。既存システムとの連携方法の設計や、データ移行作業の支援も含まれます。具体的には過去の勤務データをシステムへ取り込む作業や、マスタ情報の初期設定を支援します。導入スケジュールの策定や、各工程での課題解決をサポートします。専門知識を持った担当者が自治体に寄り添い、円滑な導入を実現します。

システムを利用する職員や管理者向けの研修プログラムが提供されます。職員向けには打刻方法や休暇申請の操作方法を、管理者向けには承認処理やデータ確認の方法を教育します。集合研修のほか、オンライン研修や個別指導など、自治体の要望に応じた形式で実施されます。一例として操作マニュアルや動画教材が提供され、職員が自主的に学習できる環境が整備されます。新規採用職員向けの研修メニューも用意され、継続的な教育体制を支援します。

システム稼働後の問い合わせや技術的なトラブルに対応するサポートが提供されます。電話やメール、Webでの問い合わせ窓口が設置され、操作方法や不具合の相談ができます。対応時間は平日の業務時間内が基本ですが、自治体の要望により延長や休日対応も可能です。たとえば給与計算の締め日前後など、重要な時期には手厚いサポート体制が組まれます。システムのバージョンアップや機能追加の情報も定期的に提供されます。迅速な対応により、業務への影響を最小限に抑えられます。

労働関係法令の改正や自治体の条例改正に伴うシステム更新が提供されます。法改正の内容を分析し、必要なシステム変更を実施します。変更内容は事前に自治体へ説明され、影響範囲や対応時期が共有されます。具体的には働き方改革関連法の改正内容がシステムへ反映され、新しいルールでの運用が可能になります。プログラム更新の作業は提供事業者が実施し、自治体の負担を軽減します。常に最新の法令に対応したシステムを利用でき、コンプライアンスを維持できます。

Blue YonderやDayforce、Legion、UKGなどのWFMでは、AIが来庁者数や季節要因を学習して人員需要を予測し、法令や組合協定、職員の希望も踏まえてシフトを自動生成する仕組みが実用化されています。自己スケジューリングや休憩管理を担うエージェントも登場しており、窓口・コールセンター・保育所など自治体業務でも、人手不足を前提にAIが最適な配置案を提示し、人事担当はその微調整と例外対応に集中するスタイルへ移行していきます。

Oracle HCMやUKG、WorkForce Softwareなどでは、勤怠データを常時モニタリングし、残業の偏りや休憩未取得、打刻漏れといった「例外」を自動検知して、上長へ是正を促す通知を飛ばす仕組みが搭載されています。さらに、生成AIが新しい労働法や就業規則の改定内容を要約してHRに示す機能も出てきており、自治体向けには、36協定や会計年度任用職員の上限管理などを自動チェックするエージェントとして発展していくことが想定されます。

日本の自治体では、東京都世田谷区がAI顔認証とクラウド勤怠を組み合わせて職員の出退勤を一元管理するなど、紙の出勤簿から脱却し、客観的な労働時間記録を行う取り組みが進み始めています。一方で、多くの導入はまだ「打刻の高度化」にとどまり、生成AIやエージェントによる問い合わせ応対・自動シフト・コンプライアンス監視といった高度な活用はこれからであり、LGWAN対応クラウドを前提に段階的に広がっていくと見込まれます。

グローバルのHCM製品では、Oracleなどが生成AIを用いて就業規則や勤務ポリシー、FAQを自動要約し、「フレックスのコアタイムは？」「どの休暇を優先して消化すべきか？」といった質問に自然な対話で答える機能を提供し始めています。自治体向け勤怠でも、条例や内規、協定文書をナレッジとして読み込ませ、職員や管理職が迷いやすい勤怠ルールをわかりやすく案内する「勤務ルールナビ」的なエージェントが中核機能になっていくでしょう。

WorkdayやIBM、Granicusなどは、チャットで答えるだけでなく、複数の業務システムをまたいで手続きを自動で進める「AIエージェント」や「デジタル同僚」というコンセプトを打ち出しています。勤怠領域でも、AIがシフト案を作成し、関係者に通知し、例外承認のステータスを管理し、最終的に給与システムへ反映するところまで一連のフローを担う構想が現実味を帯びており、自治体では人が「判断」と「責任」を担いながら、作業部分をエージェントに任せる協働スタイルが主流になっていきます。

海外の自治体では、まず住民問い合わせや職員向けFAQを扱うAIチャットボットや、会議録・文書の要約などリスクの低い用途から導入を開始し、その後、許認可審査や支払い処理を補助するエージェントへと適用範囲を広げるロードマップが一般的になりつつあります。同様に勤怠分野でも、小さなチャットボットやレポート自動作成から試しつつ、「AI機能をオフにできるか」「監査ログが残るか」「誤回答時の責任区分はどうするか」といったガバナンス条件を比較軸にして製品選定することが重要になります。